多目的コホート研究(JPHC Study)
糖尿病と脳卒中の病型との関連について
-「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果-
私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っています。今回我々は、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古の9保健所管内にお住まいだった方々のうち、循環器病にもがんにもなっていなかった40~69歳の男女約3.6万人方々の協力をいただきました。研究開始時とその5年後の調査において、空腹時(最後の食事から8時間以上経過)もしくは随時血糖の結果から、血糖正常群、境界群、糖尿病群の3群に分類した。血糖正常群は、空腹時血糖値100mg/dl未満、随時血糖値140mg/dl未満の者とし、境界群は、空腹時血糖値100~125mg/dl、随時血糖値140~199mg/dlとし、そして、糖尿病群は空腹時血糖値126mg/dl以上、随時血糖値200mg/dl以上、もしくは糖尿病治療中の者と定義しました。2004年までに平均12年間追跡し、その後の全脳卒中並びに病型別脳卒中発症のハザード比を検討しました。この研究結果を国際学術専門誌のStroke誌 に受理されましたので紹介します(Stroke 2011年42巻2611-2614ページ)。
欧米の疫学研究において、糖尿病により脳梗塞の発症・死亡リスクの上昇が報告されています。日本人の脳梗塞の特徴として、欧米人とは異なり、アテロ―ム性脳梗塞が少なく、ラクナ脳梗塞が多いことから、糖尿病との関連を詳細に検討する際には脳梗塞を病型別に分析する必要があります。しかしながら、日本人を対象とした疫学研究においては、糖尿病と病型別脳梗塞の分析がこれまで行われておりませんでした。
糖尿病群で脳梗塞の発症リスクが増加する
2004年までの平均12年間を追跡中して、全脳卒中並びに病型別脳卒中発症のハザード比を検討しました。その際に、年齢、空腹有無、肥満度、最大血圧値、降圧剤服薬有無、血清総コレステロール値、HDL-コレステロール値、中性脂肪値、喫煙、飲酒、地域を調整しました。
追跡期間中に、526人の脳梗塞(ラクナ脳梗塞259人、アテロ―ム血栓性脳梗塞91人と塞栓性脳梗塞140人)が確認されました。男女ともに血糖正常群に比べ、糖尿病群において、全脳卒中と脳梗塞の発症リスクが高く、全脳卒中と脳梗塞発症に対する年齢、他の交絡因子を調整ハザード比(多変量調整ハザード比)は、男性でそれぞれ1.64(1.21-2.23)と2.22(1.58-3.11)、女性で2.19(1.53-3.12)と3.63(2.41-5.48)でした。男女とも糖尿病と脳内出血やくも膜下出血の発症リスクとの関連は認められませんでした(図1)。
糖尿病群でラクナ梗塞、塞栓性脳梗塞、アテロ―ム性脳梗塞のいずれも発症リスクが増加する
脳梗塞の病型別に見た場合、男女とも糖尿病群において、ラクナ脳梗塞や塞栓性脳梗塞の発症リスクが高く、正常群に比べ糖尿病群では男性でそれぞれ2.04(95%信頼区間:1.21-3.44)と2.85(1.59-5.08)、女性で3.85(2.22-6.70)と4.24(1.89-9.48)でした。
アテロ―ム性脳梗塞については、男性で1.94(0.88-4.28)、女性で4.64(1.76-12.2)と、男性においては統計的に有意な関連はみられませんでした。しかしながら、男女間のその関連に差がなかったため、男女を合わせた解析を行ったところ、多変量調整ハザード比(95%CI)は、全脳梗塞で2.65(2.04-3.44)、ラクナ脳梗塞で2.65(1.82-3.87)、アテロ―ム性脳梗塞で2.58(1.41-4.72)、塞栓性脳梗塞で3.32(2.02-5.14)でした(図 2)。これらの関連は空腹時と非空腹時で分けて分析しても同じ傾向を示しました。
まとめ
糖尿病により、大血管に並びに微小血管の障害が起こり、動脈硬化が進み、脳梗塞発症につながるものと考えられます。糖尿病と脳梗塞の病型別の検討により、微小血管障害としてのラクナ梗塞発症につながるとともに、大血管障害として塞栓性脳梗塞、アテローム性脳梗塞のリスクファクターとなることが示されました。