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多目的コホート研究(JPHC Study)

日本女性の卵巣がんリスク要因

-「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果-

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っています。今回の研究では、日本女性の卵巣がんのリスク要因を分析しました。その結果を専門誌で論文発表しましたので紹介します(International Journal of Oncology 2012年40巻21‐30ページ)。

 

日本女性の卵巣がん

日本女性の卵巣がんの発生率と死亡率はかつて低かったのですが、過去数十年にわたって上昇しています。卵巣がん発生率(10万人あたり8.1件)は世界的な水準よりも高くなっているものの、まだ欧米の水準を超えてはいません。年齢調整死亡率についてみると、1950年から1990年の間に、10万人あたり0.9から3.6と4倍になりましたが、その後落ち着き、2004年には10万人あたり3.3と同年の世界推計(3.8)よりやや低い水準となっています。また移民研究からは、米国生まれの日系女性の卵巣がん発生率は日本生まれの日本女性より高いことが示唆されています。日本女性における卵巣がんを調査することによって卵巣がんの原因についての知見を得ることができるかもしれません。そこで、多目的コホート研究のデータを用いて、生殖要因や生活習慣要因の卵巣がん発生リスクへの影響を分析しました。

 

出産数増加にともなうリスク低下傾向と7時間以上の睡眠時間によるリスク低下がみられた

分析の対象になった女性45,748人のうち、平均で約16年の追跡期間中に、86件の新たな上皮性卵巣がんの発生を確認しました。卵巣がんリスク要因のそれぞれについて、リスク要因のあるグループの、ないグループに対する相対リスクを図に示します。グループによる年令と居住地域の差が結果に影響しないように考慮してリスクを算出しました。

検討したリスク要因のほとんどは、卵巣がんリスクとの間に統計学的に有意な関係は見られませんでした。出産数と卵巣がんリスクの間の関係を調べると、出産数1増加あたりのリスク減少が0.75(95%信頼区間0.56-0.99)下がりました。また、日常の睡眠時間が7時間以上のグループでは、6時間未満のグループを基準として、ハザード比0.4(95%信頼区間0.2-0.9)とリスク低下が見られました。睡眠時間と卵巣がんリスクの関連はこれまで報告されておらず、今後の検証が必要です。

主として欧米において行われた先行研究の多くでは出産歴の有無と卵巣がんリスクのあいだの関係が示されており、また、低い初潮年齢、高い初産年齢、母乳による授乳のないことと卵巣がんリスクとの関係を示した研究もあるのですが、今回の研究ではこれらを追認できませんでした。これは日本女性と欧米女性で卵巣がんリスクの特性が異なるためかもしれませんし、あるいは、症例数が少ないためにはっきりした関係が現われなかったのかもしれません。

各要因の区分別に見た上皮性卵巣がんのハザード比およびその95%信頼区間この研究について

この研究の長所として、これまで日本で行われた最大のコホート研究に基づいており、日本女性の卵巣がんリスクの特徴をよく反映していると言っていいでしょう。

しかし、日本女性における卵巣がん発生率の低さを反映して、この研究における卵巣がん発生件数は少なく、弱い関連があっても検出できなかった可能性があります。

国際がん研究機関(IARC)の最近の調査では、卵巣がんリスクは卵胞ホルモンと黄体ホルモンを含む経口避妊薬の使用により低下し、卵胞ホルモンのみのホルモン補充療法では上昇すると結論づけられていますが、今回の研究ではこの2つは「外因性ホルモン使用」としてひとつの要因に括られており、これらの要因を個別に吟味することができませんでした。今回の研究では、出産回数が多いことと、普段の睡眠時間が長い(7時間超)ことが、卵巣がんのリスクを下げる可能性のある要因として示されました。

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