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多目的コホート研究(JPHC Study)

食物繊維摂取と大腸がん罹患との関連について

-「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果-

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・虚血性心疾患・糖尿病などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の10保健所(呼称は2005年現在)管内にお住まいだった、40~69才の男女約10万人の方々を、平成14年(2002年)まで追跡した調査結果にもとづいて、食物繊維の摂取量と大腸がん発生率との関連を調べた結果を、専門誌で論文発表しましたので紹介します。
International Journal of Cancer 2006年119巻1475-1480ページ

今回の研究では、研究開始時に行った初回アンケート調査と、研究開始から5年後に行った2回目のアンケート調査の結果を用いて、それぞれ食物繊維の摂取量によるグループ分けを行い、その後に発生した大腸がんリスクとの関連を調べました。

まず、初回調査からは、約50項目の食事調査を含む生活習慣に関するデータが得られました。男性40,761人、女性45,651人の合計約9万人が対象となり、そのうち約10年の追跡期間に男性567人、女性340人が大腸がんになりました。次に、5年後調査からは、138項目の食事調査を含むより詳しいデータが得られました。男性36,901人、女性41,425人の約8万人が対象となり、約6年の追跡期間に男性335人、女性187人が大腸がんになりました。

食物繊維摂取量の非常に少ない人で大腸がんリスクが高くなる可能性

それぞれの食事調査の結果から、食事に含まれる食物繊維など栄養素の量を算出しました。食物繊維の摂取量によって、5つにグループ分けをして、大腸がんリスクを比べました。

図1 食物繊維と大腸がんリスク

 
その結果、初回調査と5年後調査のどちらからも、食物繊維の摂取量と大腸がんリスクの間に、量が多いほどリスクが低くなるという関連はみられませんでした。ただし、より詳しい5年後調査のデータでは、最少摂取量のグループで、他のグループよりも大腸がんリスクが高くなりました(図1)。次に、5年後調査の女性について、最少グループをさらに3つに分けて比べると、その中の最少グループの大腸がんリスクは、全体の最多摂取量のグループの約2倍になっていました(図2)。食物繊維を多く取ったとしてもそれだけ予防効果が期待できるわけではなさそうですが、極端に少ない人では大腸がんリスクが高くなる可能性があります。

図2 食物繊維と大腸がんリスク(女性)

 
食物繊維と大腸がん

今回の研究では、食物繊維の摂取量と大腸がんリスクの間に関連はみられませんでした。欧米の最近の疫学研究でも、食物繊維に大腸がん予防効果は認められなかったという結果が大半を占めています。しかし、ヨーロッパ8か国52万人のコホート研究では、食物繊維の摂取量が多いほど大腸がんリスクが低くなったと報告されました。その食物繊維摂取量は、他の研究に比べ、幅広い範囲にわたっていました。

また、欧米の13のコホート研究を統合した73万人の解析結果では、1日10g未満しか摂取していない約1割の人たちでリスクが高くなったと報告されました。同様に、日本でも、大腸がん予防のために十分な食物繊維は、ほとんどの方で普段の食事から取れていて、それ以上取っても効果は変わらない可能性が高いと考えられます。

研究について

今回の研究では、大腸がんリスクに関わる他の要因(年齢、アルコール、喫煙、肥満指数、運動量や肉類、葉酸、カルシウム、ビタミンDの摂取量)の影響をできる限り取り除いた上で、食物繊維と大腸がんリスクの関連を検討しました。その結果、食物繊維の大腸がん予防効果は確認されませんでした。もちろん、この結果だけで、食物繊維を多くとる習慣は心疾患や糖尿病の予防を含む総合的な健康に良いという基本的な考え方が変わるわけではありません。

用語説明

多目的コホート研究について

まず、1990年に平成2年(1990年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部に加え、大都市圏として葛飾区(東京都)の5健所管内にお住まいだった40歳から59歳までの男女からなる「コホートI」を立ち上げました。次に、平成5年1993年に、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古に加え、大都市圏として大阪府吹田の6保健所管内にお住まいだった40から69歳までの男女からなる「コホートⅡ」を立ち上げました(各保健所の呼称は2006年現在)。

地域住民については全員、大都市については自治体などの健診対象者をあわせ、両コホート約14万人に対し、食習慣・運動・喫煙・飲酒などの状況についてのベースライン調査を実施し、約11万人より回収しました。その後、それぞれ20年の計画で、死亡や病気の発生について追跡調査を継続しています。

調査開始時の「ベースライン調査」では全員から生活習慣アンケート、健康診査受けた方からはそのデータと研究目的の血液試料の提供を受けました。その後、5年後にも同様のデータと試料を収集しました。

現在も追跡調査を実施中で、これまでに死亡や自殺のリスクと、全がん、胃がん、肺がん、肝がん、大腸がん、乳がん、脳卒中、虚血性心疾患、2型糖尿病の発病リスクについて調べた結果をいくつか発表し、その他のがんや、目や歯の病気などについても研究を行っています。

 

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