多目的コホート研究(JPHC Study)
身体活動量と大腸がん罹患との関連について
-「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果-
私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・虚血性心疾患・糖尿病などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の10保健所(呼称は2006年現在)管内にお住まいだった、40~69才の男女約6万5千人の方々を平成14年(2002年)まで追跡した調査結果にもとづいて、身体活動量と大腸がん発生率との関連を調べた結果を、専門誌で論文発表しましたので紹介します。
(Cancer Causes Control. 2007年18巻199-209ページ)
今回の研究では、研究開始から5年後(45~74才のとき)に行った2回目のアンケート調査の結果を用いて、各人のふだんの身体活動量とその後平成14年(2002年)までに発生した大腸がんとの関連を調べました。
身体活動量は、仕事を含めた1日の平均的身体活動時間を、筋肉労働や激しいスポーツをしている時間、座っている時間、歩いたり立ったりしている時間、睡眠時間に分けて調査しました。これらの各身体活動を運動強度指数MET(Metabolic equivalent)値に活動時間をかけた「METs・時間」スコアに換算して合計することにより対象者1人1人の身体活動量を求め、4群にグループ分けしました。
身体活動量の多い人で大腸がんリスクが低くなる
男性では、身体活動に関する質問項目のうち、筋肉労働や激しいスポーツなどの身体活動をしている群、歩いたり立ったりしている時間が1日3時間以上の群で、それぞれ結腸がんリスクが低下するような傾向が見られました。さらに、座っている時間、歩いたり立ったりしている時間、睡眠時間などを含めた身体活動に関する質問項目のすべてをMETs・時間スコアに換算した1日当たりの身体活動量で見てみると、スコアの最大群、すなわち身体活動量の最大群で、大腸がんリスクが30%低下し(0.69倍)、特に結腸がんリスクの低下が顕著でした(0.58倍)。一方、直腸がんリスクの低下は見られませんでした。女性では、男性のような傾向はみられず、身体活動量と大腸がんリスクとの関連はありませんでした。
身体活動量を増やすことが大腸がんの予防につながる理由
今回の研究では、男性で、身体活動量を増やすことにより大腸がん、特に結腸がんリスクが低下する傾向がみられました。世界的には、身体活動量と結腸がんとの関連は「確実」とされていますが、今回の研究により、日本人でもこの関連が裏づけられたことになります。このように身体活動量の増加が大腸がんを予防する理由としては、身体活動量を増加させることによる高インスリン血症や肥満の予防、胆汁酸分泌の抑制、免疫力の増強の他、腸管蠕動の促進による便中発がん物質の腸内曝露時間短縮、腸管粘膜中プロスタグランジンE2(がんの増殖や転移に関連)の低下とプロスタグランジンF2α(腸管の運動に関連)の増加などがそのメカニズムとして推察されています。
この研究について
今回の研究では、大腸がんリスクに関わる他の要因(年齢、喫煙、飲酒、肥満指数、赤肉・食物繊維・葉酸の摂取量)の影響をできる限り取り除いた上で、身体活動量と大腸がんリスクの関連を検討しました。女性で大腸がんリスクとの関連がなかったのは、本研究で用いた調査票の中で、家事に関する質問が不十分なため、女性の身体活動量がうまく評価できていなかったためかもしれません。