多目的コホート研究(JPHC Study)
イソフラボン摂取と胃がんとの関連について
-「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果-
私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・虚血性心疾患・糖尿病などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っています。平成7年(1995年)と平成10年(1998年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古の9保健所(呼称は2012年現在)管内にお住まいだった方々のうち、45~74才の男女約8万5千人の方々を、平成18年(2006年)まで追跡した調査結果にもとづいて、イソフラボンの摂取量と胃がん発生率との関連を調べた結果を、専門誌で論文発表しましたので紹介します。 (American Journal of Clinical Nutrition 2012年95巻147-154ページ)
胃がんの罹患率は女性の方が男性の1/2-1/3程度と低いことから、エストロゲンの胃がんへの関与が推測されています。一方、イソフラボンは化学構造がエストロゲンと類似していることから、エストロゲン様に作用し胃がんの発生に影響を与える可能性が考えられています。
このことから、これまでに大豆製品と胃がんとの関連が検討されてきましたが、それらの結果は一致しておらず、予防的に働くという報告もあれば、関連がないというものや、リスクをあげるという報告もあります。これは、大豆製品の発酵状態でリスクが異なっている可能性や、加工で用いる食塩や、一緒に摂ることが多い野菜などの影響を除外しきれていないことによる可能性が考えられます。そこで、大豆製品ではなく、イソフラボンそのものに着目した研究が必要と考え、多目的コホート研究でイソフラボン摂取と胃がんとの関連について検討いたしました。
今回の研究対象に該当した男女約8万5千人のうち、追跡期間中に、1249人(男性899人、女性350人)が胃がんと診断されました。アンケートから算出された1日当たりのイソフラボン(ゲニステイン)摂取量によって、4つのグループに分けて、最も少ないグループに比べ、その他のグループで胃がんのリスクが何倍になるかを調べました。
全体としてイソフラボン摂取と胃がんとの関連はみられず
今回の研究では、全般的には、男女ともにイソフラボン摂取と胃がんとの関連はみられませんでした。但し、女性において、外因性ホルモン剤使用歴で層別したところ、外因性ホルモン剤使用歴なしの女性では、女性全体と同様に関連は認められなかったのですが、使用歴ありの女性(女性全体の14%)では、イソフラボン摂取量が多くなるほど、胃がんリスクは高くなりました。
この研究について
今回の研究から、外因性ホルモン剤使用歴のある女性での胃がんリスクの上昇がみられたものの、全般的には、イソフラボン摂取が胃がんの予防に大きな影響を与えているとはいえない結果となりました。イソフラボンと胃がんが関連するかについては、過去の疫学研究も少なく、結果も一致していませんので、今後のさらなる研究が必要と考えられます。
これまでの研究結果から、胃がんのリスク要因としては、ピロリ菌感染の他、塩分高摂取や野菜果物の低摂取、喫煙などの影響が大きいと考えられます。これらの要因についてまず生活習慣を見直して、胃がんになるのを予防すると同時に、胃がん検診を定期的に受診することにより、胃がんを早期に発見・治療することが重要です。