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多目的コホート研究(JPHC Study)

体格と乳がん罹患の関連について

-「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果-

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・虚血性心疾患・糖尿病などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の10保健所(呼称は2005年現在)管内にお住まいだった、40~69才の女性約5万6000人の方々を、平成14年(2002年)まで追跡した調査結果にもとづいて、体格に関連する要因と乳がん罹患率との関連を調べた結果を、専門誌で論文発表しましたので紹介します。
Ann Epidemiol. 2007年17巻304-312ページ

欧米に比べ、アジアでは乳がんが少ないのですが、日本では増加しつつあります。欧米を中心とするこれまでの研究結果を見ると、主として身長が高い女性ほど乳がんリスクが高くなっています。また、肥満の客観的な目安となる肥満指数{BMI、(体重kg÷身長m2)}が高い女性で閉経前の乳がんリスクが低く、閉経後の乳がんリスクが高くなっています。さらに、乳がんのエストロゲン受容体とプロゲステロン受容体が陽性か陰性かによって、体格の影響が異なるのではないかという結果があります。

一方、アジアで行われた2つのコホート研究では、身長と乳がんの関連が認められていません。また、BMIについても、結果が分かれるところです。アジアの女性で体格が乳がんにどのように影響するのかは、まだよくわかっていません。

今回の研究では、研究開始時に行ったアンケート調査(初回調査)の結果を用いて、身長、体重、BMIによるグループ分けを行いました。そして、その後約10年の追跡期間に発生した乳がんのリスクを、グループ間で比較しました。さらに、ホルモン受容体別の分析を試みました。

体格に関するデータの不備を除いた合計53,857人の女性のうち、40%は初回調査時点に閉経前でした。追跡期間中に441人の乳がんを確認し、そのうち初回調査で閉経前後がわかる430人のデータを分析しました。

体格と乳がん

まず、BMIについては、閉経後の女性で値が大きいほど乳がんリスクが高くなりましたが、閉経前の女性では関連がみられませんでした(図1)。閉経後の女性で、BMIが30kg/m2以上のグループの乳がんリスクは、19 kg/m2未満のグループに比べ2.3倍高くなっていました。

図1 肥満指数(BMI)と乳がんリスク

 
次に、身長については、閉経の前後に関わらず、高い女性ほど乳がんになりやすいという結果でした(図2)。身長160cm以上のグループの乳がんリスクは、148cm以下のグループに比べ、閉経前で1.5倍、閉経後で2.4倍高くなっていました。

図2 身長と乳がんリスク (傾向検定で p値が0.05以下の場合に、統計学的有意に上昇または下降の傾向がみられる。 0.05よりは大きいが0.1より小さい場合に、少しは傾向があるものととらえる。)

ホルモン受容体ごとの乳がんリスク

乳がんのうち約200例について、エストロゲン受容体(ER)とプロゲステロン受容体(PR)のデータが得られました。 ER陽性率が62%、PR陽性率が51%でした。

閉経前の女性では、ER(+)と(-)でBMIや身長によるリスクに差がみられませんでした。閉経後の女性では、BMIによってER(+)乳がんのリスクが高くなりましたが、ER(-)乳がんでは関連していませんでした。

PR(+)と(-)では、閉経前でも閉経後でも、体格によるリスクの差がみられませんでした。
また、ERとPRの組合せでは、閉経後の女性で、「ER(+)かつPR(+)」の乳がんリスクがBMIによって高くなっていましたが、「ER(-)かつPR(-)」では高くなっていませんでした。その他の組合せについては、数が少なかったために分析できませんでした。

この研究について

BMIが閉経後女性の乳がんリスクと関連することは、これまでの多くの研究結果と同じです。閉経後は体脂肪によって血中のエストロゲン濃度が高くなるというメカニズムで説明されます。BMIによるリスク上昇の程度も、今回の研究では1kg/m2当たり1.04倍で、欧米の研究とほぼ同じでした。ただ、欧米では日本よりも肥満の割合が高く、乳がんリスクへの影響も大きいと考えられます。

今回の研究では、身長が高いと乳がんリスクが高くなることが、アジアの女性で初めて示されました。身長が高い人で乳がんが多いことは欧米の研究結果と一致しています。幼少期から思春期にかけての成長期に栄養が制限されると、乳がんリスクが低くなることが動物実験で示されています。成人の身長は成長期の栄養状態を反映すると考えられます。今回の研究では、成長期が第二次世界大戦中・戦後にあたり、特に栄養不足のために背が伸びなかったグループが生じ、身長による乳がんリスクの差が現れたのではないかとも考えられます。ただそれだけではなく、成長ホルモンや性ホルモンなどの身長と乳がんへの関与も考えられます。

今回の研究は、アジアではこれまでで最大規模のものですが、ホルモン受容体別に乳がんリスクを見極めるには、さらに規模や期間を拡大し、それぞれのグループの数を増やして研究を行う必要があります。

 

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