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現在までの成果

インスリン関連マーカーと大腸がん罹患との関係について

-「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果-

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の10保健所(呼称は2005年現在)管内にお住まいだった、40~69才の男女約4万人の方々を、平成15年(2003年)まで追跡した調査結果にもとづいて、インスリン分泌を反映するC-ペプタイドなどの血液検査の値と大腸がん発生率との関連を調べた結果を、専門誌で論文発表しましたので紹介します。
Int J Cancer. 2007年120巻2007-2012ページ

 

保存血液を用いた、コホート内症例対照研究

多目的コホート研究を開始した時期(1990年から1995年まで)に、全対象者約14万人のうち男性約15300人、女性約26700人から、健康診査等の機会を利用して、研究目的で血液を提供していただきました。11年半の追跡期間中、375人(男性196人、女性179人)に大腸がんが発生しました。大腸がんになった方1人に対し、大腸がんにならなかった方から年齢・性別・居住地域・採血時の条件をマッチさせた2人を無作為に選んで対照グループに設定し、合計1125人を今回の研究の分析対象としました。

保存血液を用いて、血清C-ペプタイド、インスリン様成長因子-I(IGF-I)、2種類のインスリン様成長因子結合蛋白(IGFBP-3、IGFBP-1)の濃度を測定し、それぞれ値によって4つのグループに分け、大腸がんリスクを比較しました。

運動不足や肥満で大腸がんリスクが高くなるメカニズムの1つに、高インスリン血症の影響が挙げられます。IGF-Iには細胞増殖を促す働きがあり、IGFBP-1はIGF-Iに結合してその働きを抑えます。運動不足や肥満によって血中のインスリン濃度が下がらなくなると、IGFBP-1の産生が抑制され、IGF-Iの働きが活発になります。血中のIGF-Iの活性が高い状態が続くと、その細胞増殖作用などを通じて、大腸がんの発生リスクが高くなると考えられます。

C-ペプタイド:
体内でインスリンを生成する過程で生じる副産物で、血中や尿中のC-ペプタイド測定は、インスリン測定の代用となる。

IGF-I:
成長ホルモンの働きにより産生される物質で、成長促進、細胞増殖やインスリンに似た作用など、さまざまな働きをする。

IGFBP-3、IGFBP-1:
IGF-Iと結合する蛋白。

男性では、C-ペプタイド値が高いと大腸がんリスクが高くなる

その結果、男性では、C‐ペプタイドの値の最も高いグループの大腸がんリスクは、最も低いグループの3.2倍で、値の高いグループほどリスクがだんだん高くなる関連がみられました。女性では、関連がみられませんでした(図1)。

 図1 C-ペプタイドと大腸がんリスク


IGF-I、IGFBP-3、IGFBP-1については、男女とも大腸がんリスクとの関連はみられませんでした。

C-ペプタイドは男性の結腸がんと関連

次に、男性のC-ペプタイドによる大腸がんリスクを、部位別に調べました(図2)。すると、C-ペプタイド値による大腸がんリスク上昇傾向は、直腸がんよりも結腸がんで、よりはっきりと現れました。C‐ペプタイドの値の最も高いグループの結腸がんリスクは、最も低いグループの3.5倍でした。

図2 C-ペプタイドと部位別がんリスク(男性)

この研究について

この研究では、インスリン関連マーカーによる大腸がんリスクを部位別に検討しました。その結果、インスリン分泌を表すC-ペプタイドの値が男性の大腸がん、特に結腸がんのリスクと関連することがわかりました。

この主な結果は、これまでの研究と同じです。また、糖尿病の既往がある男性で結腸がんリスクが高くなることを示した本コホート研究からの知見とも一致します。しかし、今回の研究でも、女性では関連がみられませんでした。日本人女性は、欧米の研究対象集団と比べると肥満の割合が低く、C-ペプタイドの値が高い人が少なかったからかもしれません。また、閉経後女性では脂肪がエストロゲンの主な供給源となるなど、ホルモンを介した肥満の大腸がんへの影響が、女性と男性で違うのかもしれません。

IGF-Iについては、これまでに欧米の研究で繰り返し大腸がんリスクとの関連が示されていますが、中国での研究では関連が示されませんでした。今回の研究で、IGF-Iの値が大腸がんリスクと関連がなかったのは、ひとつには、対象者がアジア人であったためかもしれません。IGF-Iと大腸がんリスクの関係は、遺伝子タイプや生活習慣の影響を受けるのかもしれません。

IGF-Iと結合する蛋白であるIGFBP-3やIGFBP-1の値が高いと、メカニズムからいえば大腸がんリスクが低いことが考えられます。しかも、IGFBP-3は細胞増殖を抑制する経路を持つことが示されています。しかし、これまでの疫学研究の結果は必ずしも一致していません。今回の研究でも、関連がみられませんでした。IGFBPについては、今後さらに研究を進め、関係を明らかにする必要があります。

研究用にご提供いただいた血液を用いた研究の実施にあたっては、具体的な研究計画を国立がんセンターの倫理審査委員会に提出し、人を対象とした医学研究における倫理的側面等について審査を受けてから開始します。今回の研究もこの手順を踏んだ後に実施いたしました。国立がんセンターにおける研究倫理審査については、公式ホームページをご参照ください。

多目的コホート研究では、ホームページに保存血液を用いた研究計画のご案内を掲載しています。

 

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