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多目的コホート研究(JPHC Study)

大腸がん検診受診と大腸がん死亡率との関係

-「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果-

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・虚血性心疾患・糖尿病などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)に岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部の4保健所(呼称は2006年現在)管内にお住まいの40~59歳の男女約4万人の方々を、平成15年(2003年)まで13年間追跡した結果にもとづいて、大腸がん検診受診の有無とのその後の大腸がん死亡率との関係について調べた結果を、専門誌で論文発表しましたので、紹介します。
Cancer Detect Prev. 2007年31巻3-11ページ

大腸がん検診を受けている人では、大腸がんによる死亡率が低い

平成2年(1990年)の研究開始時点のアンケート調査では、対象者の17%が、過去1年間に便潜血検査を受けたと回答していました。そこで、過去1年間に便潜血検査を受けた人(大腸がん検診受診あり)と受けていない人(大腸がん検診受診なし)とで、その後の大腸がんによる死亡率を比較してみました。

調査開始から13年間に597人が大腸がんにかかり、132人が大腸がんで死亡しました。過去1年間に大腸がん検診受診なしの人と比べ、大腸がん検診受診ありの人では大腸がんによる死亡率が約70%低下していました(0.28倍)。

大腸がん検診受診ありの人では、大腸がん検診受診なしの人と比べて、大腸がんを除くがん全体や死亡全体でみた場合の死亡率も低下していましたが、大腸がんによる死亡率の低下の度合いが、それ以外による死亡率の低下の度合いよりも大きくなっていました。

図1 大腸がん検診受診と大腸がん死亡率との関係

また、大腸がん発見時の進行度でみてみると、検診受診ありの人で、大腸がんが早期で発見される可能性が高くなり、逆に進行してから診断される危険性は約6割減っていました(0.41倍)。

結果の解釈

がん検診の効果が本当にあるかどうか判定する指標としては、死亡率が用いられます。そのがん検診を実施することにより、対象となるがんの死亡率が減少するかどうかを見ます。今回の結果では、大腸がんの死亡率だけでなく、大腸がん以外のがんの死亡率や死亡率全体も低下していました。大腸がん検診を受診するような人は、そうでない人より健康意識も高く、より健康的な生活習慣を持つ人が多いため、そのような影響で大腸がんのみならず死亡率全体が低下したものと推察されます。しかしながら、大腸がん検診受診ありの人は、なしの人と比べて、大腸がんの死亡率の低下の度合いが、それ以外による死亡率の低下の度合いよりも約40%程度大きくなっていました。このことから、健康的な生活習慣の影響に加え、大腸がん検診を受診すること自体が、将来の大腸がんによる死亡率の減少につながっている可能性が考えられます。

また、本研究では、検診受診ありの群で早期大腸がんよりも進行大腸がんにかかる危険性が低かったことから、便潜血検査による大腸がん検診が、がんをより早期に発見するのに役立ち、これにより進行した状態で発見するのを防ぎ、結果として大腸がんによる死亡を減らしていたとも推察できます。

大腸がん検診の有効性を、最も信頼性の高い方法で評価するには、検診群と非検診群を無作為に割り付ける無作為化比較臨床試験により、本当に大腸がんによる死亡が減少するかを長期にわたって追跡し検証する必要があります。

この研究の限界について

本研究での大腸がん検診の指標である「便潜血検査」を受けているかどうかは、あくまで調査開始時点の過去1年間についてのものです。いつも受けているのに、この調査時にたまたま過去1年間に受けていなかった場合は、検診受診なしの人に分類されてしまいます。また、今までは受けていなかったのに調査開始以降に便潜血検査を継続して受診し始めた人の場合も、検診受診なしに分類されてしまいますので、結果の解釈には注意が必要です。

大腸がんの予防

わが国で、大腸がん検診の方法として「効果がある」と判定されている検査は、「便潜血検査」、「全大腸内視鏡検査」で、がん検診の中でも効果が最もよくわかっている検診です。
がん検診について:[がん情報サービス]
このうち、「便潜血検査」を用いた逐年の大腸がん検診は、職場や地域を広く対象とする対策型と、人間ドックなどでの任意型のどちらの検診でも推奨されますが、「全大腸内視鏡」は、設備の整った施設での任意型検診で推奨されます。

便潜血検査では、約7%が「精密検査が必要」という判定を受けます。この場合、必ず精密検査を受けることが求められます。精密検査の方法は、何種類かありますが、全大腸内視鏡検査が基本です。このような経過を含めて、便潜血検査による死亡率減少効果が認められています。

しかしながら、検診はあくまで、既にがんになったものを早く見つける手段です。大腸がん検診を受診するだけでよいのではなく、運動不足と肥満を解消し、禁煙し、お酒や加工肉の大量摂取を控えるなど、大腸がんの一次予防を同時に実践して、そもそも大腸がんにならないように、努力していくことが大切です。

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