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多目的コホート研究(JPHC Study)

食事からのカドミウム摂取量とがん罹患との関連について

‐多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果-

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の10保健所(呼称は2012年現在)管内にお住まいだった方々のうち、平成7年(1995年)と平成10年(1998年)にアンケート調査に回答していただいた45-74歳の男女約9万人を、平成18年(2006年)まで追跡した調査結果にもとづいて、食事からのカドミウム摂取量とがん罹患との関連を調べました。その結果を専門誌で論文発表しましたので紹介します。(Epidemiology 2012年23巻368-376ページ

国際がん研究機関(IARC)によると、動物実験やカドミウムを扱っている労働者(職業性曝露)またはカドミウム汚染地帯の住民の高濃度曝露データに基づき、カドミウムはヒトに対して発がん性のある物質(グループ1)と分類されています。しかし、日常生活でのカドミウム曝露によるがんの影響はよくわかっていません。ところが、最近、一般住民を対象とした研究で、尿中カドミウム濃度が高いとがん死亡リスクが高くなる報告や、カドミウム摂取量が多いと子宮体がんのリスクが高くなる報告が続きました。もし、一般住民の日常生活レベルでのカドミウム摂取量ががんに関連しているとすると、カドミウムを比較的多く含んでいる米を主食とする日本人にとっては関心が高い問題となります。

今回の研究では、食事からのカドミウム摂取量と、その後の、全部位及び主要部位別にみたがん罹患との関連を調べました。カドミウム摂取量は、米、小麦、大豆、野菜、果物の34食品に含まれるそれぞれのカドミウム量に、アンケートから計算された各食品の摂取量をかけて推計し、4群(部位別では3群)にグループ分けしました。
カドミウムは腎臓に蓄積されることから、一般的に、尿中カドミウム量が長期間の曝露指標として適切であると考えられています。今回の研究では、一部の対象者において、アンケートにより推計されたカドミウム摂取量と尿中カドミウム量の相関を調べたところ、男性で0.38、女性で0.45と比較的良い相関がえられ、今回の研究で推計されたカドミウム摂取量が実際のカドミウムの長期曝露をある程度反映していることを確認しています。

 

カドミウム摂取量とがんのリスクには関連なし

男性42032人、女性48351人、合計90383人が本研究の対象になり、約9年の追跡期間中に、男性3586人、女性2263人、合計5849人が何らかのがんに罹患しました。がんのリスクは高齢など他の要因によっても高くなることがわかっていますので、あらかじめこれらの影響を除いて検討しました。その結果、全がんリスクと、カドミウム摂取量の関連は見られませんでした。さらに、各部位別がんリスクについても調べたところ、男性の胃がんと膵がん、女性の腎がんと子宮体がんでリスクの上昇がみられましたが、いずれも統計学的有意な関連ではありませんでした(図)。

 

図 カドミウム摂取量とがん罹患との関連 

 

先行研究の結果と異なる理由

先行研究では、職業によるカドミウム曝露と肺がんとの関連が多く報告されていますが、職業性曝露は濃度高いことと曝露経路が吸入(肺から吸収)であることが、今回の研究と大きく異なっています。

 

研究の限界

今回の研究で推計されたカドミウムの平均摂取量は27μg/日でした。この値は、先行研究で報告されている、摂取した食事そのものに含まれているカドミウムを分析して求められた(陰膳法)日本人のカドミウム平均摂取量の26μg/日とほぼ同じであり、今回の推計がほぼ正確であったことが裏付けられています。しかし、カドミウムは食事だけではなく、たばこにも含まれています。今回の研究では、吸入曝露であるたばこと、経口曝露である食事では、カドミウムの体内への吸収を等しく考えることが難しかったので、たばこからのカドミウムを考慮に入れられませんでした。しかし、今回の結果を喫煙者と非喫煙者でわけて解析しても、結果は同じでした。

 

さらなる研究が必要

今回の研究では、カドミウム摂取とがんとの関連はみられませんでした。部位別にみると、男性の胃がんと膵がん、女性の腎がんと子宮体がんでリスクの上昇がみられましたが、統計学的有意ではありませんでした。特に、カドミウムには女性ホルモンであるエストロゲン作用があることが報告されており、そのため、一般住民の先行研究で、カドミウム摂取量が多いと子宮体がんのリスクがあがることが報告されています。今回の研究は大規模な研究ですが、部位別にわけると症例数が少なくなったため、はっきりとした関連は見られませんでした。今後もさらなる研究成果の蓄積が必要です。

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