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多目的コホート研究(JPHC Study)

魚、n-3不飽和脂肪酸摂取量と肝がんとの関連について

-「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果-

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の10保健所(呼称は2012年現在)管内にお住まいだった方々のうち、平成7年(1995年)と平成10年(1998年)にアンケート調査に回答していただいた45-74歳の男女約9万人を、平成20年(2008年)まで追跡した調査結果にもとづいて、魚とn-3不飽和脂肪酸摂取量と肝がん発生との関連を調べました。その結果を専門誌で論文発表しましたので紹介します(Gastroenterology 2012年 142巻 1468-75ページ)。

今回の研究対象に該当した男女約9万人のうち、11年の追跡期間中、398人が肝がんと診断されました。アンケートから計算されたn-3およびそれぞれ個別の不飽和脂肪酸摂取量によって、5つのグループに分けて、最も少ないグループに比べ、その他のグループで肝がんのリスクが何倍になるかを調べました。

 

n-3不飽和脂肪酸の多い魚およびn-3不飽和脂肪酸摂取量が多いグループの肝がんリスクは低い

その結果、n-3不飽和脂肪酸を多く含む魚、および、EPA, DPA, DHAといった魚に多く含まれているn-3不飽和脂肪酸を多くとっているグループほど、肝がんの発生リスクが低いことがわかりました(図1)。

 

 図1 魚、n-3不飽和脂肪酸摂取量と肝がん罹患との関連

 

肝炎ウイルス陽性者でもn-3不飽和脂肪酸摂取量が多いグループの肝がんリスクは低い

肝がんの多くは、B型・C型肝炎ウイルスの感染者から発生します。従って、肝炎ウイルス陽性者に限った解析も行いましたが、結果は、ほとんど変わらず、特に、C型肝炎ウイルス陽性者にかぎると、n-3不飽和脂肪酸摂取量が多いと肝がんリスクの低下がみられました(図2)。

 

図2 魚、n-3不飽和脂肪酸摂取量と肝がん罹患との関連(肝炎ウイルス陽性者)

 

なぜ、n-3不飽和脂肪酸は肝がんのリスクをさげるのか?

n-3不飽和脂肪酸には抗炎症作用があることが報告されています。肝がんになる方の多くは、B型・C型肝炎ウイルスによる慢性肝炎を経て発症するので、n-3不飽和脂肪酸は慢性肝炎への抗炎症作用をとおして肝がんの発症をおさえるのかもしれません。また、n-3不飽和脂肪酸にはインスリン抵抗性を改善する作用があることも報告されています。近年、多くの疫学研究で、糖尿病や肥満が肝がんのリスクをあげることが報告されていることから、インスリン抵抗性は肝がんのリスクと考えられています。肝がんリスクの低下は、抗炎症作用に加えて、n-3不飽和脂肪酸によるインスリン抵抗性の改善によるのかもしれません。

今回の研究について

今回の研究は、n-3不飽和脂肪酸が肝がんのリスクをさげる可能性を報告したはじめての研究です。さらに、肝炎ウイルス感染者に限った解析においても予防効果が認められたことより、肝炎ウイルス感染者の肝がん予防という観点からも有用なエビデンスを示したものと考えます。

 

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