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現在までの成果

教育歴と歯の健康

-「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果-

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・虚血性心疾患・糖尿病、歯の疾患などとの関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っています。多目的コホート対象地域のうち秋田県横手保健所管内にお住まいであった、1990年に40-59歳で、生活習慣などについてのアンケート調査にお答えいただいた男女約1万2,000人に対し、2005年に歯科健診を受けていただくよう、書面でお願いしました(歯科研究)。

アンケートの回答から、対象者の最終学歴が中学校の場合を教育歴の低いグループ、高等学校の場合を中程度のグループ、短大以上の場合を高いグループとしました。また、2005年に歯科アンケート調査を行った際に、甘い菓子や飲料の摂取頻度、前年の歯科健診受診の有無、喫煙状況をお答えいただき、歯科健診への参加を呼びかけました。

2006年1月までに男性706人、女性812人、合計1,518人が歯科健診に参加し、第三大臼歯(いわゆる親知らず)を除いて全部で28本の永久歯のうち何本残っているかなど、歯の健康状態について歯科医師による調査を受けました。その結果にもとづいて、教育歴と歯の健康との関連を調べ、専門誌で論文発表しましたので紹介します。
Community Dentistry and Oral Epidemiology 2012年 40巻 481-7ページ

教育歴は歯の健康に影響する

対象者の人数は、教育歴の低いグループ402人(33.5%)、中程度のグループ602人(50.6%)、高いグループ191人(15.9%)でした。歯科アンケートの結果の中で、男性では、教育歴が低いほど甘い飲料の摂取頻度が高いという差がみられましたが、その他の項目については差がみられませんでした。

歯科健診の結果、教育歴の高いグループほど、永久歯が20本以上残っている割合が高くなりました。また、残っている永久歯の本数、処置歯(FT)の数が多くなりました。上下で噛みあう歯のペア数(機能歯ユニット:FTU)では、自分の歯による機能歯ユニット(n-FTU)、自分の歯とインプラントやブリッジなどの人工歯による機能歯ユニット(nif-FTU)について、ともに教育歴の高いグループほど多くなりました。しかし、入れ歯を含むすべての歯による機能歯ユニット(総FTU)数は統計学的に有意な差はみられませんでした(表)。

表 教育歴と歯の健康
教育歴低い中程度高い傾向P値
 平均値標準偏差平均値標準偏差平均値標準偏差
年齢、性別、甘い菓子の摂取、甘い飲料の摂取、歯の健診受診、喫煙、歯や入れ歯の清掃状態が結果に影響しないように調整。ハイライトした項目で統計学的な有意差がみられた。
歯の数 16.97 17.80 18.46 19.09 20.72 21.35 0.037
DT数 0.82 1.26 0.93 1.38 0.95 1.38 0.248
FT数 9.03 9.72 9.76 10.33 11.46 12.07 0.016
n-FTU数 3.76 4.33 4.68 5.20 5.78 6.29 <0.001
nif-FTU数 4.58 5.15 5.40 5.94 6.79 7.31 <0.001
総FTU数 10.05 10.75 10.14 10.70 10.53 11.13 0.623

研究結果について

厚生労働省や日本歯科医師会によって推進されている8020運動は、「80歳で20本以上の永久歯を残す」ことを目標にしています。今回の研究では、教育歴の高いグループほど20本以上の永久歯が残っている割合は高いことが示されました。社会経済状況による歯の健康の違いについて、同様の研究結果は他にもあります。
また、今回の研究では、教育歴の高いグループほど処置歯(FT)の数が多かったのですが、このことは歯科医院の受診状況を反映していると考えられます。反対に、未処置歯(DT)の本数には教育歴による違いがみられませんでしたが、もともと未処置歯が少ない(平均1本未満)ために、違いが検出できなかったものと考えられます。FTUのペア数は総数では変わらず、n-FTUとnif-FTUでは教育歴の高いグループが高いことから、教育歴の低いグループでは、永久歯をより多く失っていますが、入れ歯を入れて噛み合わせを維持していることが推測されます。わが国には国民皆保険制度があって入れ歯を比較的安価で作ることができるので、社会経済状況による影響は少ないと考えられます。しかし、自分の歯と比べると入れ歯では噛む力は弱くなってしまいます。

 

歯科健康教育を実施することで教育歴による歯の健康格差の解消を

今回の研究結果は、日本の成人において教育歴が歯の健康に影響していることを初めて示したものです。今後、より多くの日本人を対象に社会経済状況を表わす複数の指標と歯の健康の関連について検討する必要があります。
研究結果からは、個人的な健康習慣の改善とともに、歯の健康を向上させるための社会的な環境づくりの大切さが示唆されます。また、義務教育期間に歯科健康教育を行うことによって子供たちに適切な情報を伝え、教育歴による歯の健康格差の解消を図ることの必要性が示されました。

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