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多目的コホート研究(JPHC Study)

10年間で肝がんを発生する確率について-危険因子による個人の肝がん発生の予測-

-多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告-

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん、脳卒中、心筋梗塞、糖尿病などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っています。
平成5年(1993年)に、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の6保健所(呼称は2012年現在)管内にお住まいだった40~69歳の方々にアンケート調査への回答をお願いしました。そのうち、必要な情報があり、任意で血液を提供頂いた約1万8千人について、その後平成18年(2006年)まで追跡しました。その調査結果に基づいて、10年間で肝がんを発生する確率を予測するモデルを作成して、専門誌に論文発表しましたのでご紹介します(Preventive Medicine 2012年 55巻 137-43ページ)。


肝がんは、世界で5番目に多いがんで、がんによる死亡件数では3位となっています。日本では、ほとんどの肝がんは、肝炎ウイルス(とくにC型肝炎ウイルス(HCV))の持続感染に起因していますが、15%く程度は肝炎ウイルスによらない肝がんがある事も報告されています。また、生活習慣に関連する要因(飲酒、肥満、糖尿病)は、独立した肝がんの危険因子である事が示されています。そこで、我々は、肝がんの予防に向けた啓発に利用していただく事を念頭に、肝がんウイルス感染の有無と生活習慣因子から、ある人が10年間で肝がんを発生する確率を予測するモデルを構築しました。


予測モデルに用いた8つの因子

日本人において、また国際的にも肝がんの発生リスクとの関連が明らかになっている、あるいはその可能性が強く示唆されている因子(飲酒習慣、BMI、糖尿病、コーヒー飲用習慣、B型肝炎ウイルス(HBV)感染、HCV感染)に年齢、性別を加えた8つの因子を使ってモデルを作成しました。なお、肝がんは喫煙関連がんであると報告されていますが、統計学的な観点から、喫煙は今回の予測モデルには含めませんでした。

 

簡便なツール:スコアシートの開発

我々は、一般の方にも分かりやすいように、簡単な計算で肝がんの発生確率を求めるスコアシートを作成しました。

図1  スコアシートによる肝がんの発生確率の算出の流れ

 図1 スコアシートによる肝がんの発生確率の算出の流れ


ステップ1: 点数の当てはめ

上の表に示した8つの因子(年齢、性別、飲酒習慣、BMI、糖尿病、コーヒー飲用習慣、HBV感染、HCV感染)について、カテゴリーごとに点数が割り振られています。それぞれの項目について該当する点数を求めます。

ステップ2: 点数の合計

ステップ1で求めた8つの点数を合計します。

ステップ3: 10年間で肝がんを発症する確率

合計点数ごとに本研究で求められた確率が割り当てられます。

(注1) 飲酒習慣について

飲酒量は、アルコールの種類(濃度)も考慮して週当たりのアルコールの総量で表します。たとえば、日本酒1合はアルコールに換算すると約23gです。これはビールなら大瓶1本、焼酎や泡盛なら1合の2/3、ウイスキーやブランデーならダブル1杯、ワインならボトル1/3程度に相当します。つまり、日本酒2合あるいはビール大瓶を毎日2本以上飲むと週当たりのエタノール量は322gとなります。ご自分の普段飲んでいるお酒の種類や頻度から、週当たりのアルコール量の見当をつけることが可能です。他の種類のお酒についても、1週間で300gに近い量とはどのくらいの飲酒量なのかを表に示しました。ご自分の普段の飲み方ではおおよそどのくらいのエタノール量になるのか見当をつけてみましょう。

お酒の種類(単位量)単位あたりの
エタノール量(g)
一日あたりの
合(本・杯)数
毎日飲んだ場合の週当
たりのエタノール量(g)
日本酒(1合、180ml) 23 2合 322
ビール(大瓶、633ml) 23 2本 322
ウイスキー(シングル、30ml) 10 4杯 280
ワイン(グラス、60ml) 6 7杯 294
焼酎・泡盛(原液1合、180ml) 36 1合 252

(注2) 糖尿病について
この研究では、糖尿病の既往がある人、血液検査で血糖値が100mg/dl以上(空腹時)または140mg/dl以上(空腹時以外)だった人を「糖尿病あり」と定義しました。

たとえば、52歳男性、飲酒量500g/週、BMI 26kg/m2、糖尿病あり(空腹時血糖120mg/dl)、コーヒー1日1杯、HBV感染なし、HCV感染ありの場合、
スコアの合計=年齢52歳(2)+男性(2)+飲酒量500g/週(2)+BMI26kg/m2(1)+糖尿病あり(1)+ 
                      コーヒー1日1杯(-1)+HBV感染なし(0)+HCV感染あり(6)
                   =2+2+2+1+1-1+0+6
                   =13
したがって、10年間における肝がんの発生確率は17.5% と計算されました。
もしこのHCVに感染していた男性が、飲酒140g/週、BMI23kg/m2、糖尿病なし(空腹時血糖89mg/dl)だった場合、
スコアの合計=年齢52歳(2)+男性(2)+飲酒量140g/週(0)+BMI23kg/m2(0)+糖尿病なし(0)+ 
                      コーヒー1日1杯(-1)+HBV感染なし(0)+HCV感染あり(6)
                   =2+2+0+0+0-1+0+6
                   =9
となって、10年間における肝がんの発生確率は1.6 % となります。
このように、同じ年齢、性別で、肝炎ウイルス感染があっても、生活習慣によって、10年間で肝がんになる確率に差が生じるのです。また、同様に考えていくと、肝炎ウイルス感染がない場合も、生活習慣によって肝がんになる確率に差が生じることが分かります。

我々は、日本人ではHCV持続感染が、大部分の肝がん発生の原因となっていることから、HCV感染者を対象として、生活習慣を考慮した肝がんの発生確率を求めるスコアシートも作成しました(図2)。

図2  HCV感染者における肝がん発生確率算出のためのスコアシート

 図2 HCV感染者における肝がん発生確率算出のためのスコアシート


まとめ

 この研究では、年齢、性別、飲酒習慣、BMI、糖尿病、コーヒー飲用習慣、HBV感染、HCV感染の8つの因子から、ある人が10年間で肝がんを発生する確率を算出する予測モデルを作成しました。しかしながら、今回の結果はあくまで過去の研究結果と統計的な計算式に基づいて、これから10年間での肝がん発生確率を単純な方法で推定したものに過ぎません。実際には、8つの因子以外にも体質や食事要因など今回考慮していない因子の影響もあります。また、肝炎ウイルス感染治療に関する情報がありませんので、その影響を考慮できていませんから、予測されたリスクとの違いが生じます。さらに今回は、別の集団を用いて、我々が作成した予測モデルの確からしさを確認していない事にも注意が必要です。
以上のような限界もありますので、この予測式は、肝がんの危険因子(あるいは予防因子)としてここに上げたような因子がある事を知っていただくため、また、肝炎ウイルス感染の有無にかかわらず生活習慣の違いで肝がんの発生する確率が異なることを実感し、生活習慣を見直すきっかけにしていただくために利用していただきたいと思います。

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