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多目的コホート研究(JPHC Study)

食事調査票から得られた食事パターンの正確さについて

-「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果-

栄養疫学研究では、従来、単独の食品や栄養素との関連を調べる研究が多かったのですが、実際には私たちは複数の食品を組み合わせた食事をとることから、最近では、食事全体を考慮した食事パターンを用いた研究が増えています。食事により体内では複数の栄養素によるさまざまな相互作用が生じ、各栄養素の作用が強められたり打ち消されたりしていると考えられます。食事パターンに着目することによって、食生活を総合的に検討することができます。
食事に関する調査では、過去の食事を思い出して、何(食品)をどれくらいの頻度で、どれくらい食べたか、について調査票で尋ねることがよくあります。そのため、この調査法が、真の食事摂取量をどの程度把握できるのか(妥当性)、また、同じ人に繰り返し調査を行った場合に同じ値が得られるのか(再現性)を検討することが重要です。今回、多目的コホート研究の研究開始から5年後に用いられた食事調査票の結果より食事パターンを抽出しましたので、この食事パターンの妥当性および再現性について調べた結果を紹介します(Journal of Epidemiology. 2012年22巻205-215ページ)。

 

得られた食事パターン

多目的コホート研究に参加した男性244名、女性254名について、5年後調査で用いられた食事調査票を1年間隔で2回、さらに28日間(または14日間)の食事記録調査を行いました。これらの調査から得られたデータを用いて、主成分分析(多くの項目を総合してより少ない数の合成変数を作るための統計学的手法)という方法により、それぞれにおいて3つの食事パターンを抽出しました(表1)。野菜や果物、いも類、大豆製品、きのこ類、海藻類、脂の多い魚、緑茶などが関連していたパターンを『健康型』と名付けました。さらに、肉類・加工肉、パン、果物ジュース、コーヒー、ソフトドリンク、マヨネーズなどが関連していたパターンを『欧米型』、ご飯、みそ汁、漬け物、魚介類、果物などが関連していたパターンを『伝統型』と名付けました。

表1 各食事パターンに関連する食品

 

食事パターンの妥当性

食事調査票から得られた3つのパターンが、食事記録調査から得られたパターンと類似しているかどうか調べました。各食事パターンにおいて、関連する食品やその関連の強さ(因子負荷量)を両調査でみたところ、すべてのパターンにおいて比較的類似しており、特に健康型および伝統型パターンでは良く類似していました(図1)。
また、各パターンの各対象者における両調査から得られた食事パターン得点の相関係数(類似性の程度を示し、この値が1に近いほど両調査から得られたパターンが類似していることを示す)は、健康型パターンでは男性0.47、女性0.36、欧米型パターンでは男性0.32、女性0.56、伝統型パターンでは男性0.49、女性0.63でした。
男性の欧米型パターンで相関係数が低かった理由として、このパターンに関連する食品(肉類や加工肉)の食事調査票と食事記録調査から得られた摂取量の相関があまり高くなかったことや、魚介類のこのパターンへの関連が両調査であまり一致していなかったことが考えられます。

図1 食事調査票および食事記録調査から得られた食事パターンについて(男性)

図1 食事調査票および食事記録調査から得られた食事パターンについて(男性)1

図1 食事調査票および食事記録調査から得られた食事パターンについて(男性)2

食事記録調査から得られたパターンの因子負荷量(横軸)と食事調査票から得られたパターンの因子負荷量(縦軸)をプロットしたもの。右上にある食品ほど各パターンに強く関連していることを示す。また、点線に近い食品が多いほど、両調査から得られたパターンが類似していることを示す。

 

食事パターンの再現性

1年間隔で2回行った食事調査票から得られた3つのパターンが類似しているかどうか調べました。各食事パターンにおいて、関連する食品やその関連の強さ(因子負荷量)を両調査でみたところ、すべてのパターンで関連する食品はほぼ同じであり、さらに各食品のパターンへの関連の強さは類似していました(図2)。
また、各対象者において算出した各パターンの得点を、2回の調査から得られたパターンごとにその相関係数をみたところ、健康型パターンでは男性0.56、女性0.55、欧米型パターンでは男性0.55、女性0.71、伝統型パターンでは男性0.77、女性0.68でした。

図2 1年間隔で2回行った食事調査票から得られた食事パターンについて(男性)

 図2 1年間隔で2回行った食事調査票から得られた食事パターンについて(男性)1

図2 1年間隔で2回行った食事調査票から得られた食事パターンについて(男性)2

1回の調査票から得られたパターンの因子負荷量(横軸)ともう1回の調査票から得られたパターンの因子負荷量(縦軸)をプロットしたもの。右上にある食品ほど各パターンに強く関連していることを示す。また、点線に近い食品が多いほど、両調査から得られたパターンが類似していることを示す。

 

この研究結果からわかること

 5年後の追跡調査で用いられた食事調査票から得られた食事パターンは、健康型、欧米型、伝統型食事パターンの3つであり、その再現性および妥当性は食事パターンにより若干異なるものの比較的良好であることが分かりました。この結果は今後、多目的コホート研究で、食事パターンと糖尿病やがん、脳卒中、心筋梗塞などとの関連を分析する際の重要な基礎資料となります。

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