多目的コホート研究(JPHC Study)
野菜・果物と全がん・循環器疾患罹患との関連について
-「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果-
私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・虚血性心疾患・糖尿病などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っています。平成7年(1995年)と平成10年(1998年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古の9保健所(呼称は2005年現在)管内にお住まいだった、45~74才の男女約8万人の方々を、平成14年(2002年)まで追跡した調査結果にもとづいて、野菜や果物の摂取量と全がん及び循環器疾患発生率との関連を調べた結果を、専門誌で論文発表しましたので紹介します。 (Am J Epidemiol. 2008年167巻59-70ページ)
今回の研究では、追跡開始時におこなった食習慣についての詳しいアンケート調査(野菜果物;46食品)の結果を用いて、野菜・果物の1日当たりの摂取量を算出し、少ない順に並べて4グループに分け、その後に生じた何らかのがん・循環器疾患の発生率を比べました。その結果、果物の摂取量が多いグループで循環器疾患のリスクが低くなりましたが、がんのリスクは野菜や果物の摂取量によって変わりませんでした。
果物で循環器疾患のリスク減
追跡期間中に3230人が何らかのがんと診断され、また1386人に循環器疾患(心筋梗塞・脳卒中)の発症が確認されました。まず、果物、または野菜の摂取量ごとに4グループに分けて、それぞれについて、がん、または循環器疾患のリスクを比較しました。そのときに、高齢、喫煙、肥満など、がんや循環器疾患のリスクを高めることがわかっている別の要因の影響を取り除きました。
その結果、果物の摂取量が多いグループほど、循環器疾患のリスクが低いという関連が見られました。果物の摂取量が最も多いグループでは、最も少ないグループより循環器疾患リスクが19%低減していました。野菜と循環器疾患、野菜・果物とがんについては、関連が見られませんでした(図1)。
次に、果物と野菜の種類別に(かんきつ類、アブラナ科野菜、緑葉野菜、黄色野菜)検討しました。すると、かんきつ類摂取量が多いグループほど、循環器疾患のリスクが低いことがわかりました。がんについては、どの果物・野菜のグループにおいても、関連はみられませんでした。
喫煙者では果物の循環器疾患予防効果が弱い
さらに、喫煙習慣の有無によって、別々に、果物の摂取量と循環器疾患の発症率の関連を調べました(図2)。すると、たばこを吸わない人では、果物の予防効果がはっきりとみられました。この傾向は、男性でも女性でも同様でした。つまり、喫煙習慣のある人は、果物をたくさん食べても、喫煙習慣のない人ほど効果は期待できない可能性が示されました。
野菜・果物とがんの関係を否定する研究が多い
今回の研究では、野菜・果物とがんと循環器疾患の両方を並べて検討したので、その影響の大きさを比べることができました。同様の方法で、野菜・果物とがん・循環器疾患の関連を検討した研究が、これまでに欧米から6件報告されています。そのうち5件は循環器疾患に予防的な結果でした。一方、がんと循環器疾患の両方に予防的である結果を示した研究は、比較的規模の小さい2件にとどまります。
野菜や果物と部位別のがんとの関連を調べた研究でも、近年、関連が見られなかったという報告が多くなっています。多目的コホート研究でも、大腸がんや肺がんについては関連なしと報告しています。野菜や果物の摂取量によって、がん全体のリスクにはっきりとした差はないのかもしれません。
野菜と循環器疾患
この研究では、野菜と循環器疾患との関連は見られませんでした。その1つの理由として、日本人では、循環器疾患のうち8割以上を脳卒中が占めることが考えられます。これまで、欧米を中心に、野菜が循環器疾患に予防的であることが報告されてきましたが、欧米と日本を含むアジアでは、野菜や果物の摂取量や、発生率の高い循環器疾患の種類(欧米では心筋梗塞が大半を占める)、結果に影響する喫煙率などが異なります。野菜でどの程度循環器疾患が予防出来るのかを見極めるには、今後、特にアジアでの同様の研究結果が積み重ねられる必要があります。
野菜や果物は、やはり積極的に
今回、野菜・果物の効果が見られなかったという結果は、がん全体の結果であり、胃がんなど個別の部位のがんに野菜果物が予防的であることに変わりはありません。国内の疫学研究結果をまとめ、評価している「生活習慣改善によるがん予防法の改善と評価」研究班でも、「野菜・果物不足にならない。例えば、野菜は毎食、果物は毎日食べて、少なくとも1日400グラムとる」ことを推奨しています。