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多目的コホート研究(JPHC Study)

歯周病原細菌感染と冠動脈性心疾患(CHD)

-「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果報告-

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん、脳卒中、心筋梗塞、糖尿病などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っています。
平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の10保健所(呼称は2011年現在)管内にお住まいの方々にご協力いただき、生活習慣などについてのアンケート結果、血液試料などをご提供いただきました。その後、2007年まで冠動脈性心疾患(CHD)の発生についての追跡調査を行いました。これらのデータを活用して行った歯周病原細菌とCHDの関係についての研究の成果を専門誌で論文発表しましたので、ご紹介します(International Heart Journal 2012年 53巻 209-214ページ)。


保存血液を用いた、コホート内症例対照研究

喫煙、飲酒、肥満などがCHDのリスク要因として知られていますが、これらに加えて、歯周病がCHDの発症と進行に関係していることが多くの疫学研究で示されています。
多目的コホート研究開始時に、一部の方から健康診査の機会を利用して、研究目的で血液を提供していただきました。そのうち2007年までの追跡期間中に、191人がCHDと診断されました。CHD発症者1人に対し、CHDにならなかった方から年齢・性別・居住地域・採血時の条件をマッチングさせた2人を無作為に選んで対照者に設定し、合計573人を分析対象としました。研究では、保存された血液を用いて、歯周病の原因菌として注目されている3種類の細菌、すなわち「アグリゲイティバクター・アクチノミセテムコミタンス(A. actinomycetemcomitans)」、「ポルフィロモナス・ジンジバリス(P. gingivalis)」、「プレボテラ・インターメディア(P. intermedia)」の血漿抗体レベルを調べました。抗体レベルが高いと歯周病原細菌に感染していることを示します。今回、歯周病原細菌の血漿抗体レベルとCHDの発生の関係を調べるためにコホート内症例対照研究を行いました。


歯周病原細菌の感染でCHDリスク上昇

3種類の歯周病原細菌に対する血漿中のIgG抗体レベルによって全対象者を3つに区分(高・中・低)し、抗体レベルが低いグループを基準とする各グループのCHDの発症リスクを算出しました。その際、交絡要因からの影響がないよう統計学的に調整しました。

年齢階級別に分析を行ったところ、ベースライン時の年齢が40-55歳のグループでは、A. actinomycetemcomitansに対する血漿抗体レベルが低いグループに比べ、中程度のグループでは約3.7倍、高いグループでは約4.6倍と有意にCHD発症リスクが高く、量反応関係がみられました(トレンドP値=0.007)。

また、ベースライン時の年齢が56-69歳のグループでは、P. intermediaに対する血漿抗体レベルの低いグループに比べ、高いグループでは約2.7倍と有意にCHD発症リスクが高く、量反応関係がみられました(トレンドP値=0.007)。


歯周病原細菌に対する血漿抗体レベルごとのCHD発症のリスク

歯周病原細菌に対する血漿抗体レベルごとのCHD発症のリスク


この研究について

この研究の特徴は、血漿抗体レベルによって歯周病原細菌の感染、すなわち歯周病の状態を評価したことです。歯周病の臨床指標と比較して、抗体レベルによる評価は歯周病による全身の健康への影響をより的確に把握できると考えられます。さらに、喫煙、飲酒、肥満などのCHDの重要な交絡要因の影響を考慮して分析を行っています。

ただし、限界もあります。高い血漿抗体レベルがそのとき進行中の歯周病を反映しているのか、それ以前の歯周病原細菌の感染の結果なのかを区別することは困難です。また、本研究では歯周病の代表的な3種類の細菌を分析対象としましたが、歯周病原細菌は他にもたくさんあります。

今回、日本人を対象とした疫学研究で、CHD発症前の保存血液を分析することで、歯周病原細菌の感染とその後のCHD発症との関係を前向き研究によって確認することができました。歯周病は予防したり治療したりすることが可能であり、歯周病対策を行うことがCHD発症予防に貢献する可能性が示されました。

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