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多目的コホート研究(JPHC Study)

受動喫煙とたばこを吸わない女性の肺がんとの関連について

-「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果-

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古の9保健所(呼称は2006年現在)管内にお住まいだった、40~69歳のたばこを吸わない女性約2万8千人の方々を対象に、平成16年(2004年)まで追跡した調査結果にもとづいて、受動喫煙と肺がん罹患率との関連を調べた結果を専門誌で論文発表しましたので紹介します(Int J Cancer. 2008年122巻653-657ページ)。

夫からの受動喫煙でたばこを吸わない女性の肺がん(腺がん)リスク上昇

平均13年の追跡期間中に、今回の研究の対象となった女性のうち合計109人が肺がんと診断されました。夫の喫煙状態別に肺がんの発生率を比較してみると、夫が非喫煙者である女性(受動喫煙のないグループ)と比べて、夫が喫煙者である女性(受動喫煙のあるグループ)は、約1.3倍肺がんになりやすいことが示されましたが、統計学的には有意ではありませんでした。

肺がんは、その組織型によって4種類のがん(扁平上皮がん、腺がん、小細胞がん、大細胞がん)に分類され、たばこを吸わない女性の肺がんには腺がんが多いことが報告されています。今回の研究の対象女性でも、肺がんの8割以上は腺がんでした。そこで、腺がんに限って解析を行ったところ、受動喫煙のあるグループの肺腺がんリスクは、受動喫煙のないグループの約2倍高いことがわかりました(図1)。これは、統計学的にも偶然では起こりにくいという数字でした。更に、夫の喫煙本数別にみると、受動喫煙のないグループに比べ、日に20本未満で1.7倍、20本以上では2.2倍と、本数が多いグループほど肺腺がんリスクが高いことが示されました。

たばこを吸わない女性の肺腺がんの37%は夫からの受動喫煙が原因

今回の研究の対象となった男性(夫)の49%がたばこを吸う、25%がやめた、26%が吸わない、と回答していました。これらの数字をもとに計算すると、今回の研究では、肺腺がんのうち37%は夫からの受動喫煙がなければ起こらなかった、すなわち、夫からの受動喫煙が原因であると推計されました(図1)。

図1.たばこを吸わない女性の肺腺がんへの夫の喫煙状態の影響

 
受動喫煙の機会が増えるとリスクも上昇

さらに、夫からの受動喫煙に職場など家庭以外の場所での受動喫煙が加わると、肺腺がんのリスクが、わずかですが上昇することが示されました(図2)。

図2.夫の受動喫煙と家庭以外での受動喫煙とたばこを吸わない女性の肺腺がんリスク

 
受動喫煙とたばこを吸わない女性の肺がんとの関係

今から20年以上前に、国立がん研究センターの平山(当時)らにより、夫からの受動喫煙によりたばこを吸わない女性の肺がん死亡率が上昇すると報告されて以来、受動喫煙とたばこを吸わない女性の肺がんとの関連はこれまでに世界中で調べられてきました。国際がん研究機関(International Agency for Research on Cancer, IARC)では、これまでの報告を総合的に評価して、受動喫煙と肺がんとの関係は確実なものであると2004年に報告しています。

今回の研究では、肺がんを組織型で分けて調べていることが、これまでの研究にはあまりなかった特徴です。肺がんのうち、扁平上皮がんと小細胞がんは太い気管支に発生し、本人の喫煙との関連が強いことが知られています。一方、腺がんと大細胞がんは肺の奥に発生し、本人の喫煙との関連はあるものの強くはなく、他の要因の究明が求められていました。今回の研究では、非喫煙者に多い肺腺がんと、家庭での受動喫煙との関連が明らかになりました。さらに、受動喫煙の機会が増すと、わずかですが肺腺がんリスクが高まることが示されました。

受動喫煙では、いったん空気中にひろがったたばこの煙(副流煙)に含まれる有害物質を呼吸とともに鼻から吸いこむことになりますので、喫煙者がフィルターを通して口から直接吸う(主流煙)よりも小さい、肺の奥まで届く物質を吸い込むことになるのではないかと予想されます。そのために、受動喫煙が腺がんの原因となる可能性が考えられます。また、受動喫煙中に含まれる化学物質によって肺腺がんが発生することが、動物実験でも示されています。

今回の研究では、夫と同じ部屋で過ごしている時間、夫以外の同居者の喫煙、また、家庭以外での受動喫煙についての詳しい状況については聞いていません。従って、実際どの程度受動喫煙にさらされていたのかは、正確には把握出来ていません。しかしながら、たばこを吸わない女性の主な受動喫煙の場は、家庭における夫の喫煙であるものと思われます。

現時点で肺がんの予防に最も有効なのは喫煙をしないことですが、他人のたばこの煙を吸う機会もできるだけ避けるのが望ましいでしょう。

 

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