多目的コホート研究(JPHC Study)
胆石症、肥満指数と胆道がんとの関連について
-「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果-
私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の10保健所(呼称は2007年現在)管内にお住まいだった、40~69歳の男女約13万人の方々を平成16年(2004年)まで追跡した調査結果にもとづいて、胆道がんのリスク要因を、特に胆石症の既往歴と肥満指数(BMI)に焦点を当てて調べた結果を論文発表しましたので紹介します。 (Cancer Causes Control. 2008年19巻33-41ページ)
今回の研究では、研究開始時に行った、身長、体重、既往歴、喫煙や飲酒、食生活、運動などの生活習慣についてのアンケート調査の結果を用いて、胆石の既往の有無や体形によるグループ分けを行い、胆道がんにかかる危険性(リスク)との関連を調べました。
がんの既往歴がなく該当する項目の回答に不備がないなどの条件により、最終的に、約10万人が今回の研究の解析対象となりました。約11年の追跡期間に235人(男性129人、女性106人)が胆道がんにかかりました。胆道がんは胆のうがんと肝外胆管がんに大別されますが、部位別には、胆のうがんが93人(男性30人、女性63人)、肝外胆管がんが142人(男性99人、女性43人)でした。
胆石の既往で胆道がんのリスクが高くなる
胆道がんの原因について詳しいことは、まだよくわかっていません。これまでの症例対照研究などから、胆石や肥満がリスク要因の候補と考えられます。しかし肥満は胆石のリス要因でもあるので、胆石のない人でも肥満が胆道がんと関連があるかどうかまでは、はっきりしていません。
今回のコホート研究の結果、まず、胆石の既往があるグループの胆道がんリスクは、既往のないグループの2.5倍、特に女性で3.2倍と高いことがわかりました。一方、肥満指数、糖尿病の既往、喫煙習慣、飲酒習慣は胆道がんリスクとの関連は見られませんでした。
部位別では、胆のうがんは女性に多く、肝外胆管がんは男性に多いことがわかりました。胆石の既往のあるグループでは、既往のないグループに比べ、胆のうがんのリスクが3.1倍、肝外胆管がんのリスクが2.1倍でした。胆石の既往による部位別のリスクを男女別に見ると、男性では胆のうがんだけで、女性ではどちらでも関連が見られましたが、特に肝外胆管がんリスクが高いという結果でした(図1)。
また、肥満指数は胆道がん全体では関連が見られませんでしたが、肝外胆管がんに限ると、より肥満指数の高いグループでリスクが高くなるという関連が見られました。この関連に対する胆石の既往の影響を調べましたが、特に見られなかったことから、肥満はそれだけで肝外胆管がんのリスクとなることがわかりました(図2)。
この研究について
この研究では、これまで言われてきたように、胆石の既往が胆道がんのリスクとなることが確認されました。ただし、胆石の既往はアンケート調査での自己申告データを用いています。そのため、胆石があることを把握できないケースがあって、結果が薄まったかもしれません。がん化のメカニズムとしては、胆石によって細胞が傷つき、炎症が起こり、がんが発生すると推察されていますが、詳しいことはまだわかりません。
また、肥満は胆石に関係なく肝外胆管がんと関連が見られましたが、胆のうがんとの関係ははっきりしませんでした。肥満と胆道がんの関連については、今後の研究結果を注意深く検討したうえで結論を出す必要があります。