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多目的コホート研究(JPHC Study)

HbA1cで糖尿病を定義した時の糖尿病発症の危険因子について

-「多目的コホート研究(JPHC 研究)」からの成果-

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・虚血性心疾患・糖尿病などとの関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っています。

肥満している人は糖尿病になりやすいなど、糖尿病発症に関していくつかの危険因子(「危険」という言葉を使っていますが予防的なものも含むと考えて下さい)が報告されています。しかし、これらの研究はほとんどが欧米人を対象としたものであり、日本人を対象としたものは多くありません。私たちも以前に「飲酒と2型糖尿病の発症について」で糖尿病発症の危険因子についての研究結果を報告しました。しかし、この研究では糖尿病は自己申告のみで定義していました。「飲酒と2型糖尿病の発症について」でも触れているように、自己申告では糖尿病の見逃しがあることがわかっています。
HbA1cは過去1~2ケ月間の血糖値を反映する指標で、治療の目標などとしてよく使われています。近年このHbA1cを糖尿病の診断に使われるようになってきています。米国ではHbA1cを糖尿病の診断基準として採用し、我が国でも診断基準として一部採用されています。糖尿病の定義にHbA1cを使えば自己申告による見逃しをカバーでき、研究結果がより信頼性の高いものになると考えられます。
今回私たちは、HbA1cで定義した糖尿病について糖尿病発症の危険因子について調べた結果を学術雑誌に発表しましたのでご紹介します。(Journal of Diabetes Investigation, 2011年2巻359-365ページ)


研究方法の概要

平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、沖縄県宮古の8保健所(呼称は2010年現在)管内にお住まいで、1998~2000年度および2003~2005年度に実施された糖尿病調査にご協力いただいた方々のうち、HbA1cのデータがあり、1998~2000年度の第1回調査時に糖尿病でなかった9,223名(男性3,076名、女性6,147名)を対象として5年間の糖尿病発症について調べました。糖尿病は自己申告とHbA1c (JDS値)6.1%以上で定義しました。糖尿病発症の危険因子として、年齢、BMI、喫煙、飲酒、糖尿病の家族歴、余暇の運動、1日の歩行時間、日常の体の動かし方、高血圧の既往、コーヒー摂取、ベースラインのHbA1c値、を取り入れて解析しました。


HbA1c値と糖尿病発症との関係

5年間の追跡期間中、518名(男性232名、女性286名)の方が糖尿病を発症しました。この518名中310名はHbA1cのみで糖尿病と診断されました。
男性では、年齢、喫煙(過去喫煙と現在喫煙の両方)、糖尿病の家族歴、が有意な危険因子でした。
女性では、年齢、BMI、糖尿病の家族歴、高血圧の既往、が有意な危険因子でした。
この結果はさらにベースラインのHbA1c値で調整しても大きくは変化せず、またベースラインのHbA1c値自体も糖尿病の有意な危険因子でした(HbA1c 0.1% 増加ごとにオッズ比は男性で1.36 (1.30-1.42)、女性で1.52 (1.45-1.59)増加)。

 男性 HbA1cで調整しない場合

男性 HbA1cで調整した場合

女性 HbA1cで調整しない場合


女性 HbA1cで調整した場合

縦軸はオッズ比。各項目の一番左がreference。

 


結論

欧米人を対象とした研究で糖尿病発症の危険因子とされているものは、おおむね日本人についても危険因子であることがわかりました。またベースラインのHbA1c値で調整しない場合とした場合とで結果が大きくは異ならなかったことから、ベースラインのHbA1c値は他の危険因子とは独立した危険因子であることがわかりました。ベースラインのHbA1c値で調整しない場合と、した場合のオッズ比が違うのは、その因子が一部ベースラインのHbA1c値を通じて糖尿病発症に影響しているためと考えられます。危険因子とされているもののうちの一部が有意にならなかったのは発症者数が少なかったためかもしれません。「飲酒と2型糖尿病の発症について」では自己申告だけで糖尿病を定義していましたが、その結果と本研究での結果は大きくは違っていません。前述のように、本研究では糖尿病の定義にHbA1cを使っているので自己申告だけで糖尿病を定義した場合より研究結果の信頼性は高いと考えられますが、本研究でもやはり欧米人について糖尿病発症の危険因子とされているものはおおむね日本人についても危険因子であることが確認できました。

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