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多目的コホート研究(JPHC Study)

血清コレステロール値と脳卒中とその病型別との関連について

-「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果-


私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っています。我々は、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古の9保健所管内にお住まいだった方々のうち、循環器病やがんの既往のない40~69歳の男女約3.3万人の方々に協力をいただきました。研究開始時の調査において、血清総コレステロール値を180mg/dl未満、180~199、200~219、220~239、240mg/dlの5群に分類しました。2004年までに平均12年間を追跡し、その後の脳卒中病型別発症のハザード比を検討しました。解析において、血清総コレステロール値を180mg/dl基準値として、それぞれの血清総コレステロール値群の脳卒中病型別発症のハザード比を算出しました。この研究結果を国際学術専門誌(Atherosclerosis 2012年221巻565-569ページ)に発表しましたので紹介します。

これまで欧米研究において、血清総コレステロールの高値のアテロ―ム性脳梗塞との間に関連がみられてきましたが、日本人を含むアジア人においては、血清総コレステロール値が低く、その上アテロ―ム性脳梗塞の発症率が低いこともあり、コホート研究を用いた疫学的な検討はあまりされていませんでした。本研究はこの点を確認することが主な目的でした。

血清総コレステロール高値群で脳梗塞の発症リスクが上昇する

2004年までの追跡調査中に、612人の脳梗塞の発症(その中、ラクナ脳梗塞293人、アテロ―ム性脳梗塞107人と脳塞栓168人)が確認されました。分析において、年齢、肥満度、最大血圧値、降圧剤服薬の有無、高脂質血症服薬の有無、血清HDL-コレステロール値、喫煙、飲酒、地域を調整したハザード比を算出しました。

その結果、血清総コレステロール値が180mg/dl未満の男性に比べ、血清総コレステロール値が240mg/dl以上の男性において、脳梗塞の発症リスクが高いことが認められました。女性では関連がみられませんでした。年齢、他の交絡因子を調整したハザード比は、血清総コレステロール値が180mg/dl未満の群を1とした場合、血清総コレステロール値が240mg/dl以上群の男性で1.63(1.13-2.34)で、女性で1.03(0.68-1.55)でした。男女とも血清総コレステロール値と脳内出血やくも膜下出血との間とは関連がみられませんでした(図1)。

図1 血清総コレステロール値と病型別にみた脳卒中の発症との関連

 

血清総コレステロール高値群でアテロ―ム血栓性脳梗塞の発症リスクも上昇する

また、脳梗塞の病型別に見た場合、上記と同様に血清総コレステロールが低値群の男性に比べ、高値群の男性において、アテローム血栓性脳梗塞の発症リスクが高いことが認められましたが、女性ではその関連はみられませんでした。多変量調整したハザード比は、血清総コレステロール値が180mg/dl未満の群を1とした場合、240mg/dl以上の群において、男性で2.86(1.30-6.26)、女性で0.75(0.28-2.01)でした。ラクナ脳梗塞については、血清総コレステロール高値群において、男女ともリスクの増加傾向を示したものの、統計的に有意な関連が認められませんでした。多変量を調整したラクナ脳梗塞のハザード比は、男性で1.48(0.28-2.68)で、女性で1.55(0.88-2.73)でした。(図 2)。

図2 血清総コレステロール値と病型別にみた脳梗塞の発症との関連


まとめ

本研究から、男性での血清総コレステロール高値群の脳梗塞発症リスクは低値群に比べ約2倍でした。その中で、特に、男性において高コレステロール血症とアテロ―ム血栓性脳梗塞との関連(低値群に対する高値群でのリスクが約3倍)が見出された背景として、近年日本人の血清総コレステロールのレベルが欧米とほぼ同じレベルになり、アテロ―ム血栓性脳梗塞の発症率が増加したことが考えられます。しかしながら、それでもなお、アテロ―ム血栓性脳梗塞は日本人の全脳卒中の1割であり、脳卒中全体への影響に比べて、大きいとは言えません。今後の動向を見守る必要があると言えます。

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