多目的コホート研究(JPHC Study)
血清CRP値と脳卒中、虚血性心疾患との関連について
-「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果-
私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っています。今回我々は、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古の9保健所管内にお住まいだった方々のうち、循環器病、がんの既往のない40~69歳の男女約3万4千人の方々の協力をいただきました。平成19年(2007年)までの追跡結果に基づいて、既存の血液サンプールを用いて、コホート内症例対照研究を行い、炎症のマーカーである血清高感度CRP値と虚血性心疾患、脳卒中の発症との関連について調べました。この研究結果を国際学術専門誌(Journal of Atherosclerosis and Thrombosis 2012年19巻756-766ページ)に発表されましたので紹介します。
これまでの日本人のCRPの平均値は欧米人に比べ、1/3~1/4と低いことが特徴です。CRP値は日本人において循環器疾患の発症や死亡リスクとの関連がこれまで報告されていますが、虚血性心疾患や脳卒中の発症との関連について、包括的に検討した研究は少ないのが現状です。そこで本研究を行い、CRP値と循環器疾患発症リスクとの関連を分析しました。
高感度CRPの高値で心筋梗塞の発症リスクが高い
2007年までの追跡調査中に、209人の虚血性心疾患の発症(心筋梗塞168人と突然死41人)と1,132人の脳卒中の発症(その中、脳梗塞638人、脳出血494人)が確認されました。分析においてCRP値を4分位(<0.257、0.257-0.499、0.500-1.050、≧1.060mg/L)に分けて、低値群を基準値にして、年齢、肥満度、最大血圧値、降圧剤服薬の有無、高脂質血症服薬の有無、血清総コレステロール値、喫煙、飲酒、糖尿病を調整したハザード比を算出しました。さらに、CRP値の1SD(標準偏差)の増加分に対する多変量調整ハザード比も算出しました。
CRP低値群(最小4分位)に比べ、CRP高値群(最大4分位)において、心筋梗塞の発症リスクが高い傾向をみられたものの、有意な関連とはなりませんでした。CRP低値群に対するCRP高値群の年齢や他の交絡因子を調整したハザード比(95%CI)は、虚血性心疾患で1.02(0.58-1.78)(トレンドp値=0.44)で、心筋梗塞で1.44(0.74-2.81)(トレンドp値)0.08)でした。しかしながら、CRP値の1SDの増加に伴い、虚血性心疾患の発症リスクが増加傾向を示し、心筋梗塞の発症リスクの有意な増加がみられました。 CRP値の1SDの増加に伴う多変量調整ハザード比(95%CI)は、虚血性心疾患で1.16(0.96-1.39)(p値=0.13)で、心筋梗塞で1.28(1.03-1.59)(p値=0.03)でした(図1)。
図1 血清CRP値の1SD当たりの増加に伴う脳卒中と心疾患のハザード比
高感度CRPの高値群で脳梗塞の発症リスクが高い傾向がある
CRP低値群に比べ、CRP高値群において、脳梗塞や脳梗塞の病型別発症リスクが高い傾向がみられましたが有意な関連とはなりませんでした。CRP低値群を1とした場合、CRP高値群の年齢や他の交絡因子を調整ハザード比(95%CI)は、脳梗塞で1.19(0.82-1.73)(トレンドp値=0.22)で、ラクナ脳梗塞で1.18(0.68-2.05)(トレンドp値=0.37)で、アトローム性脳梗塞で0.96(0.42-2.20)(トレンドp値=0.95)で、脳塞栓で2.55(0.96-6.77)(トレンドp値=0.10)でした。CRP値の1SDの増加に伴い、脳梗塞の発症リスクの増加傾向がみられました。CRP値の1SDの増加による多変量調整ハザード比(95%CI)は、脳梗塞で1.13 (0.99-1.29)(p値=0.07)で、ラクナ脳梗塞で1.16(0.96-1.41)(p値=0.13)で、アトローム血栓性脳梗塞で1.07(0.80-1.43)(p値=0.66)で、脳塞栓で1.41(0.98-2.01)(p値=0.06)でした(図 1)。
まとめ
血清高感度CRPのレベルが欧米に比べ低い日本人において、CRPの高値群において心筋梗塞の発症リスクの増加が、また、脳梗塞の発症リスクの増加傾向がみとめられました。