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多目的コホート研究(JPHC Study)

血中の緑茶ポリフェノールと胃がん罹患との関係について

-「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果-

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の10保健所(呼称は2007年現在)管内にお住まいだった、40~69才の男女約3万7000人の方々を、平成16年(2004年)まで追跡した調査結果にもとづいて、血漿中の緑茶ポリフェノールの値と胃がん発生率との関連を調べた結果を、専門誌で論文発表しましたので紹介します。 (Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 2008年17巻343-351ページ

保存血液を用いた、コホート内症例対照研究

多目的コホート研究の対象者約10万人のうち、研究開始時に健康診査等の機会(1990年から1995年まで)を利用して、男性約13500人、女性約23300人から研究目的で血液を提供していただきました。約12年の追跡期間中に発生した胃がんのうち、関連データが不足していない胃がん494人(男性331人、女性163人)の1例ずつに対し、胃がんにならなかった方から年齢・性別・居住地域・採血時の条件をマッチさせた1人を無作為に選んで対照グループに設定し、合計988人を今回の研究の分析対象としました。

保存血液を用いて、血漿中の主な4種類の緑茶ポリフェノール<エピガロカテキン3ガレート(EGCG)、エピガロカテキン(EGC)、エピカテキン3ガレート(ECG)、エピカテキン(EC)>を測定し、男女別にそれぞれのカテキンの値によって3つのグループに分け胃がんリスクを比較し、さらに喫煙習慣の影響を調べました。緑茶を飲む回数や杯数を尋ねるアンケート調査では、茶葉の種類や入れ方などによる実際のカテキン摂取量の差まではわかりません。このように直接血中濃度を測定することにより、より正確にカテキンの摂取量を把握できると期待されます。

女性で血中エピカテキン3ガレート濃度が高いと胃がんリスクが低い

まず、女性でエピカテキン3ガレート(ECG)濃度が高いと胃がんリスクが低いことがわかりました。

検出感度以下のT1グループに対し、濃度が中程度のT2グループと濃度が高いT3グループをほぼ人数が均等になるように設定し、胃がんリスクを比較しました。

すると、ECGが9.3(ng/ml)以上のT3グループでは、濃度が低くて検出できなかったT1グループに比べて7割以上、リスクが抑えられていました(図1)。

図1.血中緑茶ポリフェノールと胃がん(女性)

 
一方、男性ではそのような関連は見られませんでした。逆に、エピガロカテキン(EGC)では濃度が高いT3グループ<78.0(ng/ml)以上>で、胃がんリスクが高いことがわかりました。(図2)

図2.血中緑茶ポリフェノールと胃がん(男性)

 
喫煙状態によって、緑茶ポリフェノールと胃がんの関係が変わる

次に、男女合わせて、研究開始時点の喫煙状態別に、緑茶ポリフェノールと胃がんリスクの関係を調べました。すると、非喫煙者では濃度が高いグループでリスクが低いのに対し、喫煙者では逆にリスクが高いという、喫煙状態によって異なる傾向が見られました。特にECGについては、濃度が高いグループでは、非喫煙者では胃がんリスクが抑えられたのに対し、喫煙者では逆にリスクが上昇しました(図3)。

図3.血中ECG濃度と胃がん(喫煙状態別)

 
緑茶と胃がんの関係に見られる男女差は喫煙の影響

この研究では、保存血液の緑茶ポリフェノール濃度による胃がんリスクを検討しました。その結果、傾向に男女差が見られ、女性でのみ予防効果が見られました。

また、喫煙状態別に見ると、たばこを吸わない人では緑茶の予防効果が見られるようでしたが、喫煙者では逆にリスクが高いような結果となりました。

これまでの日本の主なコホート研究の結果を見ると、緑茶をよく飲むグループの胃がんリスクは、女性では低めになるのに対し、男性では高めになるという傾向があり、全体で見るとどちらなのかはっきりしないというものでした。

今回の研究で、喫煙習慣によって緑茶と胃がんの関連が変わる可能性が示されました。日本人の中高年男性の喫煙率は高く、緑茶と胃がんの関連に影響を与えるために、喫煙率の低い女性とは結果が一致しなかったのかもしれません。

緑茶による胃がん予防はたばこを止めてから

今回の研究では、血中の緑茶ポリフェノールが検出感度以上であったグループの人数が少なかったために、結果の解釈には注意が必要です。特に女性では検出感度以上のグループでヘリコバクター・ピロリ菌感染率が低く、その影響を取り除きはしましたが、ピロリ菌の胃がんリスクとの関連が強いために結果に残ってしまった可能性があります。あるいは逆に、緑茶ポリフェノールがピロリ菌感染率を変えることで胃がんリスクに影響したとも考えられます。

緑茶に胃がん予防効果があるとしても、たばこを吸っている場合には効果は得られない可能性が高いという結果でした。ただし、たばこを止めた人(過去喫煙者)では血中の緑茶ポリフェノール濃度が高くても胃がんリスクは高くありませんので、緑茶ポリフェノールによる胃がん予防を考える際には、たばこを止めることが前提になるでしょう。

研究用にご提供いただいた血液を用いた研究の実施にあたっては、具体的な研究計画を国立がんセンターの倫理審査委員会に提出し、人を対象とした医学研究における倫理的側面等について審査を受けてから開始します。今回の研究もこの手順を踏んだ後に実施いたしました。国立がんセンターにおける研究倫理審査については、公式ホームページをご参照ください。

多目的コホート研究では、ホームページに保存血液を用いた研究計画のご案内を掲載しています。

 

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