多目的コホート研究(JPHC Study)
清涼飲料水(ソフトドリンク)と循環器疾患発症との関連について
-「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果報告-
私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・虚血性心疾患・糖尿病などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っています。
平成2年(1990年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部の4保健所管内にお住まいの40~59歳の男女に、食習慣を含む生活習慣についてのアンケートに回答していただきました。5年後、10年後にも同様の生活習慣のアンケート調査を行いました。そのうち、初回調査時点で糖尿病や循環器病、がんなどの生活習慣病になっていなかった男女約4万人の方々を、約18年追跡しました。その調査結果に基づいて、清涼飲料水と循環器疾患発症との関係を分析し、国際専門誌(American Journal of Clinical Nutrition 2012年96巻1390-1397ページ)に発表しましたので紹介します。
今回の研究では清涼飲料水を「コーラや果汁飲料など、カロリーのある甘味料を添加してある飲料(100%果汁ジュースは除く)」と定義して、どの程度の頻度で飲用しているかによってグループ分けを行いました。また、2008年までの集団内の循環器疾患(脳卒中や虚血性心疾患)の発症状況を確認しました。
女性では清涼飲料水の飲用量が多いほど脳梗塞の発症リスクが高い
平均で約18年間の追跡調査中に、39,786人の中で453人(男性360人、女性93人)が虚血性心疾患、1,922人(男性1,133人、女性789人)が脳卒中を発症したことを確認しました。その脳卒中の内訳は、859人(男性454人、女性405人)が出血性脳卒中、1,047人(男性670人、女性377人)が脳梗塞でした。3回の食事調査の結果を総合し、清涼飲料水を「ほとんど飲まない」、「週に1~2回」、「週に3~4回」、「ほぼ毎日」の4区分に分け、18年間の循環器疾患発症リスクについて分析しました。
その結果、出血性脳卒中や虚血性心疾患については、男女とも清涼飲料水との関連はみられませんでした(図1、2)が、女性において、清涼飲料水の飲用量が多いグループほど、脳梗塞の発症リスクが明らかに高くなる傾向を確認しました(図3)。しかしながら、男性では飲用量が多いグループで脳梗塞のリスクが低くなるようでした。この関係は、追跡して9年目までの発症例を取り除くと、男性におけるその傾向はさらに弱まりましたが、女性における傾向は弱まりませんでした。
図1 清涼飲料水と虚血性心疾患発症の関係
図2 清涼飲料水と出血性脳卒中発症の関係
図3 清涼飲料水と脳梗塞発症の関係
清涼飲料水が脳梗塞を発症させる理由
清涼飲料水は、過度に飲用することにより、血糖値や血中尿酸、メチルグリオキサール、中性脂肪、LDL-コレステロールを上昇させることが示されています。メチルグリオキサールは、高血圧や糖尿病性合併症、尿毒症症状との関連性も指摘されています。また、清涼飲料水の飲用量と、脳梗塞の危険因子であるメタボリックシンドロームとの関連も報告されています。清涼飲料水の過剰摂取は、急激な血糖・インスリン濃度の上昇に寄与し、耐糖能異常、インスリン抵抗性にもつながり、脳梗塞の危険因子である糖尿病を進展させる可能性があります。
男女で清涼飲料水と脳梗塞の関係が異なる理由
炭水化物を多く含む清涼飲料水の飲み過ぎにより、脂質異常症や耐糖能異常を引き起こし、循環器疾患発症に至る可能性が考えられますが、これまで欧米を中心に行われてきた研究結果でも、男性よりも女性においてよく関連がみられています。その理由として清涼飲料水は、炭水化物が多く含まれており、女性においては、炭水化物は脂質や炭水化物への代謝に影響することが考えられていますが、詳しいことはよくわかっていません。
また、今回の研究では、男性においては既に脳卒中になりやすい人達が、健康のために、清涼飲料水の飲用量を減らし、脳卒中になりにくい人達が相対的に飲用量の多いグループになってしまった可能性があります。そのために、9年目までの比較的早い時期で発症している人を解析から外すと、男性における関連が弱まったとも考えられます。
清涼飲料水と虚血性心疾患との関連がみられなかった理由
欧米では過度の清涼飲料水の飲用により、虚血性心疾患発症リスクが高くなることが報告されていますが、本研究では同様の関係はみられませんでした。その理由として、欧米人は日本人に比べ、虚血性心疾患の発症率や肥満度が高く、清涼飲料水の飲用量も多いことや、虚血性心疾患や脳梗塞に共通した代謝異常は、日本人では虚血性心疾患よりも脳梗塞をより強く引き起こすことが考えられます。
本研究では、欧米に比べて飲用量の少ない日本人においても、清涼飲料水の飲用量が多い女性で脳梗塞発症リスクが高くなる可能性が示されました。また、男性については脳梗塞リスクとの関連はみられず、男女とも出血性脳梗塞や虚血性心疾患リスクとの関連もみられませんでした。清涼飲料水は、食生活が欧米化・多様化した日本をはじめとするアジア圏内において、その消費量が増加傾向にあり、今後とも注意が必要な食習慣の一つと言えます。
訂正履歴:
2013年1月9日に、「岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、東京都葛飾の5保健所管内」から「岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部の4保健所管内」に変更しました。