多目的コホート研究(JPHC Study)
食事パターンと糖尿病との関連について
-「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果報告-
私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、東京都葛飾区、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の11保健所(呼称は2012年現在)管内にお住まいだった40~69歳の方々のうち、研究開始から5年後に行った食事調査票の結果より食事パターンを抽出し、さらに、ベースラインおよび5年後に行った調査時に糖尿病やがん、循環器疾患になっていなかった男女約6万5千名を5年間追跡した調査結果にもとづいて、食事パターンと糖尿病発症との関連を調べた結果を、専門誌で論文発表しましたので紹介します(European Journal of Clinical Nutrition 2013年67巻18-24ページ)。
3つの食事パターン
研究開始から5年後に行った食事調査票の結果から、134項目の食品・飲料の摂取量により、野菜や果物、いも類、大豆製品、きのこ類、海そう類、脂の多い魚、緑茶などが関連した「健康型」、肉類・加工肉、パン、果物ジュース、コーヒー、ソフトドリンク、マヨネーズ、乳製品、魚介類などが関連した「欧米型」、ご飯、みそ汁、漬け物、魚介類、果物などが関連した「伝統型」の3つの食事パターンを抽出しました。
全体としては、いずれの食事パターンも糖尿病発症との関連なし
5年後調査時の3つの食事パターンについて、各対象者におけるパターンのスコアにより4つのグループに分類し、その後5年間の糖尿病発症(男性692名、女性502名)との関連を調べました。糖尿病の発症は、研究開始10年後に行った自記式調査で、上記追跡期間内に糖尿病と診断されたことがある場合としました。
その結果、男女ともにいずれの食事パターンも糖尿病発症との有意な関連はみられませんでした(図1)。
図1 食事パターンと糖尿病発症のリスク
喫煙習慣の有無やBMIが25 kg/m2未満(非肥満)と25 kg/m2以上(肥満)の群に分けて調べたところ、男性非喫煙者と女性非肥満者において、健康型食事パターンのスコアが低い群に比べ高い群では、糖尿病発症のリスクが低くなる傾向を認めました(図2)。一方、男性喫煙者、女性肥満者ではこのような関連はみられませんでした。また、男性非喫煙者では欧米型食事パターンにおいて、スコアが高くなるほど糖尿病発症のリスクが高くなる傾向を認めたものの、男性喫煙者ではこのような関連は認めませんでした。
図2 喫煙有無および肥満有無による食事パターンと糖尿病発症のリスク
今回の研究では、全体としてはいずれの食事パターンも糖尿病発症との関連はみられませんでしたが、男性非喫煙者および女性非肥満者において健康型食事パターンで糖尿病のリスクが低下、男性非喫煙者において欧米型食事パターンで糖尿病のリスクが上昇するという結果が得られました。
これまでに、白米や肉類の摂取は糖尿病のリスク上昇、魚やコーヒー、乳製品の摂取はリスク低下との関連が報告されていますが、食事パターンとして総合的にみるとお互いの効果が打ち消され、肉類や魚介類、コーヒー、乳製品が関連した「欧米型」および白米や魚が関連した「伝統型」パターンでは糖尿病発症との関連がみられなかったのかもしれません。また、野菜が強く関連した「健康型」パターンでは、糖尿病リスクはわずかに低下したものの有意な関連は認めませんでした。野菜摂取は、2010年に発表された6つの前向き研究のメタ解析でも糖尿病発症との関連はみられていません。
しかしながら、非喫煙者や非肥満者において健康型パターンや欧米型パターンで糖尿病発症との関連がみられたことから、糖尿病の重要な危険因子を有さない者においては、糖尿病予防において食事は重要であるかもしれません。
この研究で用いた食事パターンの分類は、食事調査で摂取量を測定した134品目をもとに行われました。それ以外の食品が含まれば、パターン分類を含め結果が違ってくる可能性は否定できません。