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多目的コホート研究(JPHC Study)

葉酸、ビタミンB6、ビタミンB12摂取と虚血性心疾患発症との関連について

-「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果-

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・虚血性心疾患・糖尿病などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っています。まず、平成2年(1990年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部の4保健所(呼称2005年現在)管内にお住まいの40~59歳の男女に、食事調査を含む生活習慣についてのアンケートに回答していただきました。平成7年(1995)年には、より詳しい食事調査を含む2回目のアンケートで、当時の生活習慣について回答していただきました。そのうち、初回調査時点で循環器病にもがんにもなっていなかった男女約4万人の方々を、約11年追跡しました。

これらの調査結果をもとに、葉酸、ビタミンB6、およびビタミンB12などの栄養素摂取と虚血性心疾患発症との関連を調べました。虚血性心疾患とは、心臓に血液を送る動脈の硬化や血栓などによって、心臓の血流が悪くなることで生じる疾患で、代表的なものに心筋梗塞症があります。葉酸、ビタミンB6、およびビタミンB12などの栄養素の1日当たりの摂取量は、2回の食事調査をもとに、これらの栄養素を含む様々な食品の1週間の摂取頻度と1回あたりの摂取量から算出しました。この研究結果を国際専門誌に発表しましたので紹介します。
J Am Coll Nutr. 2008年27巻127-136ページ

今回の研究では、ビタミンB6の摂取量が多いと、虚血性心疾患に予防的な効果がある可能性が示されました。

葉酸、ビタミンB6、ビタミンB12を多く摂取するグループで心筋梗塞のリスクが低下

追跡期間中に男性201人、女性50人、合計251人に虚血性心疾患が確認されました。虚血性心疾患リスクを、葉酸、ビタミンB6、およびビタミンB12の摂取量による5つのグループの間で比較しました。高齢、男性、喫煙、肥満などの他の要因によってもリスクが高くなることがわかっていますので、あらかじめ影響を除き、総合ビタミン剤を摂取している人を除いた上で、各栄養素との関連を検討しました。すると、ビタミンB6の摂取量が最も少ないグループに比べ、その他のグループでは30%~50%リスクが下がりました。葉酸、ビタミンB12では傾向はあっても、統計学的に有意な関連が見られませんでした。しかし、この分析を心筋梗塞のみに限ると、ビタミンB6との関連はさらに強くなり、葉酸、ビタミンB12でも統計学的に有意な傾向がみられました(図1)。

図1.葉酸、ビタミンB6、ビタミンB12摂取量と心筋梗塞

 
3つの栄養素をまんべんなく

葉酸、ビタミンB6、ビタミンB12は、生体内でのメチル代謝において、それぞれ異なる役割を担っています。ひとつでも欠乏することによりメチル代謝が滞ると、血中ホモシステインが上昇し、動脈硬化などにより心筋梗塞を引き起こすと考えられています。

それぞれ摂取量で2群に分けて、3つの栄養素の高低の組み合わせを見てみると、3つの栄養素とも全てが高い人の群に比べて、全ての栄養素が低い人の群では、心筋梗塞のリスクが約2倍でした(図2)。さらに、1つの栄養素摂取量が高くても、他の2つが低い人の群ではリスクが上昇する傾向がありました。このことから、これらの栄養素はひとつだけが高いだけでは、心筋梗塞には予防的に働かない可能性が示されました。

図2.葉酸、ビタミンB6、ビタミンB12摂取量高群と低群の組み合わせと心筋梗塞のリスク

 
ビタミンB6摂取が足りない日本人

さらに、ビタミンB6が低い人では、葉酸とビタミンB12摂取量は高くても、3つが低い人たちと同じくらい心筋梗塞のリスクが高いということがわかりました。今回、ビタミンB6と心筋梗塞の関連が特に強かった理由として、日本人では葉酸やビタミンB12摂取量が高い人が比較的多いのに対して、ビタミンB6摂取が低いことが挙げられます。ビタミンB6の最大の摂取源である白米でも、茶碗1杯(約150g)に約0.03mgしか含まれていません。ビタミンB6を多く含む食品を積極的に摂取していくことが心筋梗塞の予防につながる可能性があります。

研究の限界

この研究では、結果に影響すると考えられる他の要因や質問票の測定誤差の影響をできる限り小さくするように努めました。しかし、葉酸などの栄養素を多く摂取したと答えた人たちが健康的な生活習慣を持っていたために、これらの栄養素が予防的にみえてしまっている可能性が残ります。また、この結果は食事からの栄養素摂取量のものであり、サプリメントの摂取による予防効果は検討していません。

摂取量の推定値について

今回の研究では、摂取量の推定に食物摂取頻度アンケートが使われています(図1に示された摂取量)。この、アンケートを用いた推定摂取量を、対象者の一部に実施されたより直接的な食事記録調査から算出された値と対比すると、葉酸で15~20%、ビタミンB6で30%、ビタミンB12で31~42%ほど過小評価していました。

コホート研究などで用いられる食物摂取頻度アンケート調査は、摂取量による相対的なグループ分けには適していますが、それだけで実際の摂取量を正確に推定するのは難しく、また年齢や時代・居住地域などが限定された対象集団の値を一般化することは適当とは言えませんので、ここに示した摂取量はあくまで参考値にすぎません。

 

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