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多目的コホート研究(JPHC Study)

カルシウム摂取量と腰椎骨折との関連について

-「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果-

私たちは、いろいろな生活習慣病のリスク要因を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)と平成5-6年(1993-1994年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の10保健所(呼称は2008年現在)管内にお住まいだった、40~69歳の男女約7万6千人の方々を10年間追跡した調査結果にもとづいて、カルシウム摂取量と自己申告による腰椎骨折発生率との関連を調べた結果を専門誌で論文発表しましたので紹介します。
Br J Nutr. 2009年1月 101巻285-294

カルシウム摂取の少ない女性のグループで腰椎骨折をおこしやすい

対象者約7万6千人のうち、364人に(交通事故などによる骨折を除いた)腰椎骨折の自己申告がありました。男女別に、カルシウム摂取量によって4つのグループに分けて、摂取量が最も多いグループに比べ、それ以外のグループで腰椎骨折のリスクが何倍になるかを調べました。

その結果、女性では、カルシウム摂取量の最も少ないグループの腰椎骨折の発生リスクは、最も多いグループの約2.1倍で、摂取量が少なければ少ないほど、骨折の発生リスクが高くなるという傾向がみられました(下図)。カルシウム摂取の少ないグループはエネルギー摂取量も少ない傾向にあるため、エネルギー摂取量で調整して分析してみましたが、結果は同様でした。

しかしながら、男性では、カルシウム摂取量と腰椎骨折に関連はみられませんでした。また、今回の調査ではビタミンDの摂取量も評価していますが、男女ともビタミンDの摂取量と腰椎骨折に関連はみられませんでした。

図1. 腰椎骨折のリスク

 
カルシウム摂取量と腰椎骨折の関係

国民健康・栄養調査によると、40-70歳の女性のカルシウム摂取量は1日あたり562mgと、食事摂取基準の目安量および目標量に達していません。一般に、カルシウム不足は骨粗鬆症のリスクを上げることは知られていましたが、「(日本人おいて)カルシウムが不足するとどの程度骨折が増えるのか」ということはわかっていませんでした。今回の研究はこの点を明確に示しました。

国民健康・栄養調査から推定すると、「最も少ない群」のカルシウム摂取量を調査時の1日当たり350mg未満に相当し、「最も多い群」のカルシウム摂取量は700mg以上に相当します。その値にこの研究結果を応用すると、「カルシウム摂取量が350mg/日未満の中高年女性は、700mg/日以上の女性より2倍腰椎骨折を起こしやすい」と推定することができます。カルシウム摂取量が一日350mgに満たない女性には、腰椎骨折予防のためカルシウムの豊富な食品を増やすことが勧められます。また、統計学的に有意な結果ではありませんでしたが、中間(2番目または3番目)のカルシウム摂取量の女性も、最も多い群に比較すると腰椎骨折の発生率が高い傾向にありましたので、カルシウムを十分に摂取するよう心がけるのがよいと思われます。

一方、男性では、カルシウム摂取量と腰椎骨折発生に関連は見られませんでした。一般に、男性の骨量(骨密度)は女性より多いので、この結果は不思議ではありません。しかし、今回の研究の対象者は、ベースラインの時点で40-69歳と、骨折のよく発生する年齢よりやや若いので、もっと高齢の男性ではどうなのかわかりませんでした。その点については、更なる研究が必要です。

今回の研究の限界

今回の研究の限界は、腰椎骨折の発生の事実を自己申告に基づいて得たことです。このような調査方法では、対象者が間違って申告してしまう可能性があります。そのような場合、理論的には、カルシウム摂取の少ないグループの骨折発生リスクを低く見積もってしまいます。ですから、そのような誤申告を考慮に入れると、男女とも、カルシウム摂取の少ないグループにおける実際の腰椎骨折発生リスクは、もう少し高いかもしれません。ただ、自己申告による調査の利点もあります。自己申告の腰椎骨折は、多くの場合症状のある骨折であり(レントゲンによる診断で腰椎骨折を調査すると、症状のない腰椎骨折を多く拾います)、それゆえ、今回の研究結果は、「カルシウム摂取が少ないグループは症状を伴う腰椎骨折が多く発生する」と一般化できるかもしれません。

今回は、腰椎骨折を調べましたが、他の重要な転倒骨折(たとえば大腿骨頸部骨折など)については調べていません。カルシウム摂取の少ないグループでは、他の転倒骨折も多く発生することが予想されますが、それを証明するには更なる研究が必要です。また、今回の研究により、カルシウム摂取量を増やすと腰椎骨折が予防できることが期待されます。これを証明するには、今後介入研究を行うことが必要です。

 

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