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多目的コホート研究(JPHC Study)

身体活動量とがん罹患との関連について

-「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果-

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・虚血性心疾患・糖尿病などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っています。岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の10保健所(呼称は2008年現在)管内にお住まいだった方々のうち、平成7年(1995年)と平成10年(1998年)にアンケート調査に回答していただいた45-74歳の男女約8万人を、平成16年(2004年)まで追跡した調査結果にもとづいて、身体活動量とがん罹患との関連を調べました。その結果を、専門誌で論文発表しましたので紹介します。
Am J Epidemiol. 2008年168巻391-403ページ

今回の研究では、各人のふだんの身体活動量とその後の全部位及び主要部位別にみたがん罹患との関連を調べました。

身体活動量は、仕事や余暇の運動を含めた1日の平均的身体活動時間を、筋肉労働や激しいスポーツをしている時間、座っている時間、歩いたり立ったりしている時間、睡眠時間に分けて調査しました。これらの各身体活動を運動強度指数MET(Metabolic equivalent)値に活動時間をかけた「METs・時間」スコアに換算して合計することにより対象者1人1人の平均的な身体活動量を求め、4群にグループ分けしました。

男性37898人、女性41873人、合計79771人が本研究の対象になりました。約8年の追跡期間中に、男性2704人、女性1630人、合計4334人が何らかのがんに罹患しました。

図.1日の身体活動量(METs)とがん罹患との関連

 
身体活動量の多い人でがん罹患の危険性が低くなる

男女とも、身体活動量が多い群ほど、何らかのがんにかかるリスクが低下していました。身体活動量の最小群と比較した場合、最大群のがん罹患リスクは、男性で0.87倍、女性で0.84倍でした。低下の傾向は女性でよりはっきりと見られ、さらに高齢群や余暇の運動頻度の多い群でよりはっきりとした低下がみられていました。

部位別に見ると、男性では結腸がん・肝がん・膵がんで、女性では胃がんで、身体活動最大群で、有意に罹患リスクが低下していました。

ところで、身体活動量が低いグループには、もともと体調が悪いために運動ができなかった人が含まれるかもしれません。その影響を避けるために研究開始から3年以内にがんになった方を除いて分析しましたが、結果は変わりませんでした。

身体活動量を増やすことががんの予防につながる理由

対象者の年齢から、男女とも、仕事、余暇に限らず、全体的に身体活動量が多いことにより、がんにかかる危険性が低下する傾向がみられました。このように、身体活動量の増加により、がんにかかるのを予防できる理由は、完全に解明されているわけではありません。肥満の改善をはじめ、性ホルモンやインスリン・インスリン様成長因子(IGF-1)の調節、免疫調節能の改善、フリーラジカル産生の抑制などがメカニズムとして推察されています。高インスリン血症やインスリン抵抗性により発がん促進に重要な役割を果たしていることで知られる体内循環IGF-1が増加し、またIGF結合タンパクが減少します。身体活動を増やすことにより、インスリン感受性を高め、空腹時のインスリン量を低下させることにより、インスリン抵抗性が改善すると推察されます。また、身体活動によるマクロファージやナチュラルキラー細胞、好中球やサイトカインの調節など、免疫調節能の改善による効果もがん予防に寄与していると考えられています。ただし、激しい運動は活性酸素やフリーラジカルを増加させ、脂質やタンパク質、DNAの損傷につながる一方、中等度の運動では、抗酸化物質の損失を抑制するため、そのバランスによって、運動は有益とも有害ともなり得ます。その他、運動により腸管の通過時間が短縮し、胆汁の内容や分泌に良い影響を与えるともいわれています。

がんの予防には、日頃からよく動くことが大切

今回の結果から、身体活動の種類によらず、全体的によく動いている人で、がんにかかるリスクが低くなることがわかりました。男性と女性、仕事をしている人としていない人、家事のある人とない人などによって日頃の身体活動の種類は異なることが多いのですが、自身の生活の中で可能な方法により、よく動く時間を増やしていくことが、がんの予防につながると考えられます。

この研究の注意点

今回の研究では、アンケート調査を用いて、1日の平均的身体活動量を推定しています。身体活動量の推定値は、グループ分けのために用いているもので、あらかじめ実施した調査で実施した身体活動記録や測定値などと比較すると、低めの値となります。自分の運動量が、どの群にあるのかの参考にはなりますが、計算値をそのまま身体活動量値として用いることはできません。また、年齢、居住地、糖尿病の有無、喫煙・飲酒状況、肥満指数、余暇の運動回数など、がん罹患リスクに関わる可能性のある別の要因について、身体活動量グループによる差が結果に影響しないよう配慮して分析を行いました。しかしながら、その他の要因など何らかの影響が残っている可能性は否定できません。

 

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