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多目的コホート研究(JPHC Study)

緑茶・コーヒー摂取と脳卒中発症との関連について


-「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果報告-

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っています。これまでに緑茶、コーヒー摂取と病型別脳卒中発症との関係についての研究はほとんどなく、緑茶とコーヒー摂取の組み合わせと脳卒中発症との関係はまだありません。そこで、緑茶とコーヒーの摂取と脳卒中および虚血性心疾患発症との関係を検討することを今回の研究の目的としました。対象者は、平成7年(1995年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、平成10年(1998年)に、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、9保健所(呼称は2013年現在)管内にお住まいだった45~74歳のうち、循環器疾患、がんの既往のない追跡可能な男性38,029人、女性43,949人です。その結果を専門誌で論文発表しましたのでご紹介します(Stroke 2013年 44巻 1369-74ページ


緑茶摂取と脳卒中・虚血性心疾患の発症との関連

研究開始時に緑茶を飲む頻度に関する質問への回答から、飲まない、週に1~2回、週に3~6回、毎日1杯、毎日2~3杯、毎日4杯以上飲むという6つの群に分けて、その後の脳卒中および虚血性心疾患発症との関連を分析しました。平成19年(2007年)末まで追跡した結果、3,425人の脳卒中発症と910人の虚血性心疾患発症を確認しました。
緑茶を飲まない群を基準とした場合、毎日2~3杯、4杯以上の群の危険度(95%信頼区間)は、それぞれ循環器疾患発症で0.85(0.78-0.93)、0.84(0.77-0.92)、脳卒中発症で0.86 (0.78~0.95)、0.80 (0.73~0.89)となっていました(図1)。同様に毎日4杯以上の群の脳梗塞発症の危険度(95%信頼区間)は、0.86 (0.76~0.98)であり、毎日1杯、2~3杯、4杯以上の群の脳出血の危険度(95%信頼区間)は、それぞれ0.78 (0.62~0.99)、0.77 (0.63~0.92)、0.65 (0.54~0.78)となっていました。しかし、緑茶と虚血性心疾患との関連は見られませんでした。

図1. 緑茶摂取頻度と循環器疾患発症リスク

調整変数は性年齢、喫煙、飲酒、Body mass index、糖尿病既往歴、降圧剤服用、習慣的な運動、果物、魚、摂取エネルギー、地域、コーヒー摂取頻度で行った。
*:P<0.05:緑茶を飲まないを基準


コーヒー摂取と脳卒中・虚血性心疾患の発症との関連

ベースライン時にコーヒーを飲む頻度に関する質問への回答から、飲まない、週に1~2回、週に3~6回、毎日1杯、毎日2杯以上飲むという5つの群に分けて、その後の脳卒中および虚血性心疾患発症との関連を分析しました。コーヒーを飲まない群を基準とした場合、週に3~6回、毎日1杯、毎日2杯以上飲む群の発症危険度(95%信頼区間)はそれぞれ循環器疾患で、0.89 (0.81~0.98)、0.84 (0.76~0.92)、0.89 (0.80~0.99)で、脳卒中で0.89 (0.80~0.99)、0.80 (0.72~0.90)、0.81 (0.72~0.91)でした。さらに週に1~2回、週に3~6回、毎日1杯、毎日2杯以上飲む群の脳梗塞発症危険度(95%信頼区間)は順に、0.87 (0.78~0.98)、0.83 (0.72~0.96)、0.78 (0.68~0.90)、0.80 (0.68~0.94)でした。一方、コーヒー摂取と脳出血、虚血性心疾患との関連は見られませんでした。ただし、毎日2杯以上コーヒーを摂取する群における性年齢調整の虚血性心疾患発症の危険度は1.21 (1.00-1.46)と有意でしたが、循環器疾患に関連する別の要因の影響を考慮して分析すると1.21 (0.98-1.50)となり統計学的な有意差が消えました(図2)。

図2. コーヒー摂取頻度と循環器疾患発症リスク

調整変数は性年齢、喫煙、飲酒、Body mass index、糖尿病既往歴、降圧剤服用、習慣的な運動、果物、魚、摂取エネルギー、地域、緑茶摂取頻度で行った。
*:P<0.05コーヒーを飲まないを基準(多変量調整)


緑茶、コーヒー摂取カテゴリーの組み合わせによる循環器疾患発症との関連

緑茶を日に2杯以上またはコーヒーを日に1杯以上摂取する群では、緑茶もコーヒーも飲まない群に比べると、循環器疾患、脳卒中、脳梗塞、脳出血の発症リスクが有意に低下しました(図3)。特に、脳出血については、緑茶とコーヒー摂取の相互作用がみられ、より低いリスクとなりました(交互作用P=0.04)。

図3 緑茶・コーヒー摂取と脳出血発症リスク

調整変数は性年齢、喫煙、飲酒、Body mass index、糖尿病既往歴、降圧剤服用、習慣的な運動、果物、魚、摂取エネルギー、地域で行った。
*:P<0.05緑茶およびコーヒーの両方共摂取しないを基準(多変量調整)

 

緑茶の先行研究では、日に1杯未満の緑茶を基準にして、日に5杯以上緑茶を摂取する群において全死亡と循環器疾患死亡のリスクがそれぞれ15%と26%低いことが報告されています。また、緑茶をよく摂取する群で脳卒中、脳梗塞、脳出血発症のリスクが低いこという報告もあります。緑茶と虚血性心疾患発症については、これまでの研究でも関連を認めませんでした。今回の研究は、脳卒中発症との関連をこれだけ大勢の対象者で検討した初めてのものであり、これまでの研究と同様の結果が得られています。


緑茶にはカテキンなどの抗酸化作用、抗炎症作用、抗血栓作用、血漿酸化防止と抗血栓形成効果などによる複数の血管保護効果がみられます。緑茶と血圧との関連に関する文献には賛否両論があり、また文献が少ないため今後の研究が必要とされます。

コーヒーの先行研究では、致死性・非致死性脳卒中とコーヒー摂取と関連が見られないもの、メタ解析によると、中程度のコーヒー摂取に弱い予防効果が見られる研究や、日に7杯以上のコーヒー摂取は脳卒中との関連性はみられないという研究もあり、結果が一致していません。近年スウェーデンの研究では、日に1杯以上のコーヒーはそれ以外と比べて女性の脳梗塞のリスクが低いが、脳出血は低くないという結果でした。一方、コーヒー摂取と虚血性心疾患との関連についても一致した結果が得られていません。今回の研究では、日に2杯以上のコーヒー摂取は年齢調整で虚血性心疾患のリスクとして見られましたが、更に循環器疾患に関連する別の要因の影響を考慮して、(多変量調整)分析するとその関連性が消えました。これは米国のコホート研究の結果と同様でした。コーヒーをたくさん摂取する群には喫煙者が多く含まれているので、年齢調整で見られた関連性が、喫煙で調整されると見られなくなったものと考えられます。
コーヒーにはカフェインが含まれていますが、血清コレステロールと血圧との関連性にはまだ決着が着いていません。また、コーヒーにはクロロゲン酸が含まれており、血糖値を改善する効果があると言われています。ベースライン調査では、コーヒー摂取頻度が高いと糖尿病の既往歴の割合が低い傾向にありました(糖尿病既往歴の割合は、コーヒーを飲まない群で7.1%、日に2杯以上摂取する群において3.5%でした)。糖尿病は脳梗塞の危険因子であり、そのためコーヒー摂取頻度が多いと脳梗塞の発症が低く抑えられていることが推察されます。
緑茶とコーヒーの摂取の組み合わせで、両者のどちらかの頻度が多いと全脳卒中、脳梗塞、脳出血の発症リスクが低いことが分かリました。緑茶とコーヒーに関しては、緑茶で日に2杯以上、またはコーヒーで日に1杯を摂取することで、脳卒中のリスクが減少する可能性が示されました。

この研究で用いたアンケートでは、日本茶(せん茶)と日本茶(番茶・玄米茶)の摂取頻度について尋ねていますが、今回緑茶として分析したのはそのうち(せん茶)のみになります。また、コーヒーについては、コーヒー(缶コーヒー以外)と缶コーヒーの摂取頻度について尋ねていますが、今回分析したのはそのうちコーヒー(缶コーヒー以外)で、カフェインとカフェインレスを分けて尋ねてはいませんので、この点をご留意ください。

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