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多目的コホート研究(JPHC Study)

社会的な支えとがん発生・死亡リスクとの関連について

―「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果報告―

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っています。平成5年(1993年)に、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古の5保健所(呼称は2006年現在)管内にお住まいだった、40~69歳の男女約4万4,000人の方々を平成15年(2003年)まで追跡した調査結果にもとづいて、社会的な支えとがん発生・死亡との関連を調べた結果を論文発表しましたので紹介します。(Cancer Causes & Control. 2013 年24巻847-860ページ)


社会的な支えは、がんなどの発生や死亡にどう関わるのか

欧米の研究では、社会的な支え(心身を支え安心させてくれる周囲の家族、友人、同僚などの存在)の少ない人では、多い人に比べて、乳がんの発生や死亡のリスクが高いことが報告されています。人と人とのつながりの少ない人は話し相手がいないため、不安や悩みを誰にも打ち明けられずに一人で問題を抱えてしまい、そのことが悪い健康行動やストレス等を介してがんなどの疾病に影響すると考えられています。しかし、これまでに日本人で社会的な支えとがんの発生や死亡との関連を調べた報告はありませんでした。
今回の研究では、研究開始時に行ったアンケートで、①心が落ち着き安心できる人の有無(なし:0点、あり:1点)②週1回以上話す友人の人数(なし:0点、1~3人:1点、4人以上:2点)、③行動や考えに賛成して支持してくれる人の有無(なし:0点、あり:1点)、④秘密を打ち明けることのできる人の有無(なし:0点、あり:1点)をたずねました。
社会的な支えの指標として、各回答の点数(0点から2点)の合計が5点以上の場合に社会的な支えが「とても多い」グループ(全体の29%)、4点を「多い」グループ(42%)、2~3点を「ふつう」のグループ(19%)、1点以下を「少ない」グループ(10%)とし、グループ間で臓器別にがんの発生や死亡を比較分析しました。


男性において、社会的な支えが少ないグループは、大腸がんの発生及び死亡リスクが高い

平均で約12年の追跡期間中に、3444人にがんの発生を確認しました。解析の結果、男女とも、がん全体の発生または死亡のリスクに社会的な支えによる差はみられませんでした。臓器別の分析では、男性において、社会的な支えの「とても多い」グループに比べると、「少ない」グループの大腸がん発生は1.5倍、大腸がん死亡は3.1倍、高いという結果が見られました(図1)。年齢層別に見ると、この傾向は59歳より若い男性でより強い関連が見られました。他の臓器のがん発生または死亡については、社会的な支えとの関連は見られませんでした。

図1 社会的な支えと大腸がん発症・死亡(男性)

社会的な支えは男性で大腸がんへ影響

今回の結果より、社会的な支えが少ない男性では、社会的な支えが多い男性に比べて、大腸がん発生および死亡リスクが高いことがわかりました。社会的な支えは、日頃の検診受診や適切な治療を受ける努力やより健康なライフスタイルを選ぶことなどの健康行動などを介して大腸がん発病および予後に影響すると考えられます。また、社会的な支えが多い人では、周囲の人に相談をすることでストレスを緩和することができることが関係しているのかもしれません。多目的コホート研究では、これまでに大腸がん検診受診により大腸がん死亡を予防できることを示しました。男性の社会的な支えは大腸がん検診受診率を向上させ、そのために社会的な支えのあるグループで大腸がんリスクが低下するのかもしれません。しかしながら、今回の研究ではその関わりを分析することはできませんでした。今後の前向き研究において、その点についての検証が必要です。

 

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