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多目的コホート研究(JPHC Study)

学歴とがん・循環器系疾患罹患リスク及び死亡リスクとの関連について

-「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果-

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っています。平成7年(1995年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部の4保健所(呼称は2003年現在)管内にお住まいだった、40~59才の男女約5万人の方々を、平成15年(2003年)まで追跡した調査結果にもとづいて、学歴と全がん及び循環器疾患の罹患リスク及び死亡リスクとの関連を調べました。その結果を専門誌で発表しましたので、紹介します。
Eur J Public Health. 2008年18巻466-472ページ

学歴などの社会格差が健康に影響することは知られていますが、がんや循環器系疾患の罹患や死亡に対し学歴がどのような影響を与えるのかを調べた疫学研究の結果は少なく、よくわかっていません。

今回の研究では、追跡開始時に行ったアンケート調査の結果を用いて、対象者を最終学歴によって3つのグループに分けました。中学校(高等小学校)までを「初等教育」グループ、高等学校(旧制中学校)を「中等教育」グループ、短大・専門学校、大学以上を「高等教育」グループとして、その後に生じた何らかのがん・循環器疾患の罹患リスクと死亡リスクを比べました。

その結果、がん・循環器系疾患の罹患リスクついては学歴による差は見られませんでした。また、がんによる死亡についても、学歴による違いは見られませんでした。それに対し、全死因による死亡と循環器系疾患による死亡についてはどちらも「初等教育」のグループで「高等教育」のグループよりもリスクが高くなりました。

罹患リスクと死亡リスクを同時に検討

追跡期間中に何らかのがんが確認されたのは2573人、循環器系疾患は1251人でした。また、死亡が確認された2430人のうち、がんによるものが1064人、循環器系疾患によるものが548人でした。

今回の研究では、学歴によるがんや循環器疾患の罹患と死亡のリスクを同時に検討しました。その際に、年齢、喫煙、肥満など、がんや循環器疾患のリスクを高めることがわかっている別の要因の学歴グループによる差が結果に影響しないように配慮しました。

その結果、がんについては罹患・死亡のどちらも差がみられませんでした。これに対し、全死因による死亡、すなわち寿命前の何らかの原因による死亡リスクが「初等教育」グループで高いことがわかりました。循環器系疾患については、罹患リスクに差は見られませんでしたが、死亡リスクは「初等教育」グループで「高等教育」グループより高いという結果でした。「初等教育」グループでは全死因の死亡リスクが22%、循環器系疾患による死亡リスクが44%上昇していました。(図1)

図1.学歴によるがん・循環器疾患のリスク(死亡・罹患)


 
職業の種類が循環器系疾患の死亡リスクと関連

さらに、職業の影響を取り除いて検討したところ、循環器系疾患による死亡リスクの差が見られなくなりました。そこで、職業と循環器系疾患による死亡リスクの関係を調べてみました。すると、農林漁業、建設作業その他労務作業では、管理職、専門職、事務職に比べて、循環器系疾患による死亡リスクが高くなりました。

初等教育グループには循環器系疾患による死亡リスクが高い職業が多く、そのことが学歴による死亡リスクの違いにつながったと考えられます。

医療サービスの利用に格差

欧米の研究では、学歴が病気になった後の致死リスクと関連することが報告されています。今回の研究では、循環器系疾患になるリスクには学歴による差が見られなかったにも関わらず、それで死亡するリスクは「初等教育」グループで高いという結果でした。このことから、日本では国民皆保険制度が採用されているものの、発症後の医療サービスの利用に学歴による格差があるのではないかと考えられます。

また、今回の研究では収入についての情報が得られませんでしたが、学歴による収入の差が、より高度な医療へのアクセスを制限していることも考えられます。

このような、生活習慣の違いでは説明できない学歴による全死因・循環器疾患による死亡リスクの差が生じるプロセスを理解するためには、医療サービスの利用を制限する社会・心理学的要因の解明が今後の課題となります。

 

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