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多目的コホート研究(JPHC Study)

血中イソフラボン濃度と前立腺がん罹患との関連について

-「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果-

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っています。

平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の10保健所(呼称は2008年現在)管内にお住まいだった、40~69歳の男性約4万3千人の方々を平成17年(2005年)まで追跡した調査結果にもとづいて、血中イソフラボン濃度と前立腺がん発生率との関連を調べた結果を専門誌で論文発表しましたので紹介します。
J Clin Oncol. 2008年26巻5923-5929ページ

保存血液を用いた、コホート内症例対照研究

多目的コホート研究を開始した時期(1990年から1995年まで)に、一部の方から、健康診査等の機会を利用して研究目的で血液を提供していただきました。今回の研究対象に該当し保存血液のある男性約1万4000人のうち、約13年の追跡期間中、201人に前立腺がんが発生しました。

前立腺がんになった方1人に対し、前立腺がんにならなかった方から年齢・居住地域・採血日・採血時間・空腹時間の条件をマッチさせた2人を無作為に選んで対照グループに設定し、合計603人を今回の研究の分析対象としました。保存血液を用いて血漿中イソフラボン(ゲニステイン、ダイゼイン、グリシテイン、イコール)濃度を測定し、それぞれ値によって最も低いから最も高いまでの4つのグループに分け、前立腺がんリスクを比較しました。

ゲニステイン、イコール濃度が高いグループの限局前立腺がんリスクは低い

その結果、ゲニステイン濃度の最も高いグループ(≧151.7ng/mL)の前立腺がんリスクは、最も低いグループ(<57ng/mL)の0.66倍でした。食事からの摂取量と血清濃度を比較したデータを用いて1日あたりの摂取量に換算すると、ゲニステイン濃度の最も高いグループの中央値はゲニステインで28.1mgとなり、納豆だと約50g、豆腐だと約100gに相当します。一方、ダイゼイン、グリシテインでは同様の関連は見られませんでしたが、ダイゼインの代謝物であるイコールでは、最も高いグループ(≧15.0ng/mL)では、イコールを産生できないグループのリスクと比較して、約40%の低下がみられました。

また、前立腺内にとどまる限局がんと、それ以降の進行がんに分けて、血中イソフラボン濃度によるグループによるリスクを比べたところ、これらの影響は、限局前立腺がんでより明らかとなり、最も濃度の高いグループで、ゲニステインでは約50%、イコールでは約60%のリスクの低下がみられました。一方、進行前立腺がんでは、関連がみられませんでした(図1)。

図1.血中イソフラボンと前立腺がんリスク

 
イソフラボンと前立腺がんとの関係

イソフラボンは、エストロゲン活性をもっていることや、血中テストステロンレベルを下げること、発がんに関わるチロシンキナーゼの作用や血管新生を阻害することなどにより前立腺がんを予防するということが、多くの実験研究で報告されています。多目的コホート研究では、すでに、食事摂取頻度アンケートから算出されたイソフラボン摂取量と前立腺がんの関連について、イソフラボン摂取量が高いグループで限局前立腺がんリスクが低くなる、と報告しています。血液を用いた今回の研究も、摂取量で評価した結果と同様に、イソフラボンの血中濃度が高いと、限局する前立腺がんのリスクを低下させる、という結果でした。

特に、今回の研究では、血中ダイゼイン濃度との関連はみられませんでしたが、イコールの濃度が高いグループで限局前立腺がんのリスクの低下がみられました。イコールは、腸内細菌によって産生される、ダイゼインより作用の強い代謝物です。今回の結果は、代謝物を測定できる血液を用いた研究でしか得られない知見です。

一方、今回の研究では、血中イソフラボン濃度と進行前立腺がんとの関連はみられませんでした。このことは、限局がんと進行がんになる前立腺がんの性質が異なる可能性が考えられます。また、イソフラボンの予防的効果のメカニズムの一つとして、エストロゲンレセプターβ(ER-β)を介した作用が考えられていますが、進行前立腺がんでは、ER-βが少なくなることが報告されていますので、イソフラボンは進行前立腺がんでは作用しないことが考えられます。また、イソフラボンは、テストステロンからより活性の強いジヒドロテストステロンに変換する5αリダクターゼという酵素を阻害する作用を持っていますが、5αリダクターゼが低下すると、前立腺特異抗原(Prostate Specific Antigen, PSA)が低下することが報告されています。PSAの値は前立腺がんの診断の一つに用いられます。よって、PSAの値が比較的低い限局がんでは、さらにPSAの値が低下することとなり、前立腺がんとして発見されることが少なくなるのに対して、PSAの値が高い進行がんでは、血中イソフラボン濃度の影響をうけない、ということも考えられます。いずれにしても、今回の研究では、進行前立腺がんの症例数が少なく(48例)、結果が偶然であることも否定できず、今後の研究での確認が必要です。

イソフラボンは多くとった方がよいのか?

今回の研究では、子供の頃から日常の食生活で恒常的にイソフラボンを多く摂取している日本人を対象とした研究ですので、この研究の結果からはサプリメントの効果はわかりません。また、イソフラボンと進行前立腺がんとの関係は、まだはっきりしていませんので、イソフラボンが進行がんのリスクを上昇させる可能性も懸念されます。今回の研究では、サプリメントの影響はどうなのか、イソフラボンをどの時期にどれくらいの期間摂取すれば、限局前立腺がんを予防できるか、ということは明らかではありませんので、今後の研究が期待されます。

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