多目的コホート研究(JPHC Study)
食事パターンと自殺との関連について
-「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果報告-
私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、東京都葛飾区、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の11保健所(呼称は2011年現在)管内にお住まいだった40~69歳の方々のうち、研究開始から5年後に行った食事調査票に回答した男女約9万名を2005年まで追跡した調査結果にもとづいて、食事パターンと自殺との関連を調べた結果を、専門誌で論文発表しましたので紹介します(British Journal of Psychiatry 2013年203巻422-7ページ)。
我が国における自殺者は、2012年に15年ぶりに3万人を下回りましたが、1998年以降毎年3万人を超えています。自殺に関連する要因として、心理社会的要因についてはよく知られていますが、環境要因、特に食事要因についてはあまり分かっていません。そこで、食事全体を考慮した食事パターンを用いて、自殺との関連について検討しました。
3つの食事パターン
研究開始から5年後に行った食事調査票の結果から、134項目の食品・飲料の摂取量により、野菜や果物、いも類、大豆製品、きのこ類、海そう類、脂の多い魚、緑茶などが関連した「健康型」、肉類・加工肉、パン、果物ジュース、コーヒー、ソフトドリンク、マヨネーズ、乳製品、魚介類などが関連した「欧米型」、ご飯、みそ汁、漬け物、魚介類、果物などが関連した「伝統型」の3つの食事パターンを抽出しました。
健康型食事パターンにより自殺のリスクが低下
5年後調査時の3つの食事パターンについて、各対象者におけるパターンのスコアにより4つのグループに分類し、その後約8.6年の追跡期間中に発生した自殺(249名、このうち追跡開始4年以降の自殺は163名)との関連を調べました。
その結果、男女ともに健康型食事パターンのスコアが高い群では低い群に比べ、追跡開始4年以降の自殺のリスクが約5割低下していました(図1)。欧米型および伝統型食事パターンは自殺リスクとの関連はみられませんでした。
もともとうつ傾向のある人は、食事パターンや自殺のリスクがうつによって影響を受けている可能性があります。そこで、うつ傾向の指標として精神的ストレスの強さで分けて調べたところ、精神的ストレスが低いまたは中程度の群では、健康型食事パターンは自殺のリスク低下と関連していましたが、精神的ストレスが高い群ではこのような関連はみられませんでした。
今回の研究では、男女ともに、野菜や果物、いも類、大豆製品、きのこ類、海そう類、脂の多い魚、緑茶などが関連した健康型食事パターンにより自殺のリスクが低下するという結果が得られました。この理由として、この食事パターンのスコアが高い群では、葉酸や抗酸化ビタミン(ビタミンCやカロテン)の摂取が多いことによると考えられます。葉酸や抗酸化ビタミンは、自殺の危険因子として知られているうつに対して予防的に働くことが報告されており、食事パターンとして総合的にみることで、これらの栄養素の相乗効果も期待できます。
この研究の限界について
この研究で用いた食事パターンの分類は、食事調査で摂取量を測定した134品目をもとに行われました。それ以外の食品が含まれたり、対象者が異なったりすれば、パターン分類は違ってくる可能性があります。