多目的コホート研究(JPHC Study)
カルシウム、ビタミンD摂取と大腸がん罹患との関連について
-「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果-
私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・虚血性心疾患・糖尿病などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っています。
平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の10保健所(呼称は2005年現在)管内にお住まいだった、40~69才の男女約8万人の方々を、平成14年(2002年)まで追跡した調査結果にもとづいて、カルシウムおよびビタミンDの摂取量と大腸がん発生率との関連を調べた結果を、専門誌で論文発表しましたので紹介します。
(American Journal of Clinical Nutrition 2008年88巻1576-1583ページ)
今回の研究では、研究開始から5年後(45~74才のとき)に行った、食習慣についての詳しいアンケート調査の結果を用いて、カルシウムおよびビタミンDの1日当たりの摂取量を算出してグループ分けを行い、その後の大腸がん発生率を比べました。その結果、カルシウムの摂取量が多い男性で、大腸がんの危険度(リスク)が低くなる可能性が示されました。
カルシウムを多く摂取するグループで大腸がんのリスクが低下
追跡期間中に男性464人、女性297人、合計761人に大腸がんが確認されました。大腸がんリスクを、カルシウムおよびビタミンDの摂取量の高低によるグループ間で比較しました。大腸がんリスクは高齢、喫煙、肥満などの他の要因によっても高くなることがわかっていますので、あらかじめこれらの影響を除き、男女別に検討しました。すると男性において、カルシウムの摂取量が最も少ないグループに比べ、摂取量が最も多いグループでリスクが低くなりました。カルシウムの摂取量が最低(300mg未満)のグループと比べると、最高(700mg以上)のグループでリスクが40%近く低いことがわかりました(図1)。しかし、女性では関連がみられませんでした。
ビタミンDと大腸がん
ビタミンD摂取量と大腸がんの間には、男女とも統計学的有意な関連は見られませんでした。しかし、男性においては、カルシウムとビタミンDの摂取量をそれぞれ低・中・高の3群にわけて組み合わせた場合、両栄養素が高いグループでリスクが低いということが明らかになりました(図2)。
カルシウムが大腸がんを予防する機序としては、腸管内腔の上皮細胞を刺激し、がんの発生を促進する二次胆汁酸を吸着することと、細胞増殖や分化に直接作用することなどが考えられています。ビタミンDはカルシウムの吸収に関与することから2つの栄養素の摂取量が高い群で大腸がんのリスクが低い結果であったことの説明がつきます。
本研究の結果では、男性のみにおいて、カルシウムと大腸がんの関連が見られました。その理由の1つとして、女性ではカルシウム摂取量が全体的に高かったのに対し、男性では、極端に低い人が多かったことが考えられます。
一般的に日本人の食事は、カルシウムが不足していることが、国民健康・栄養調査結果などからも報告されています。私たちの研究班ではこれまでも、カルシウムの摂取量が多い人たちは、循環器疾患や腰椎骨折のリスクが低いという報告をしてきており、日本人はカルシウムの摂取量を増加させることにより様々な疾患が予防できる可能性を示しています。一方のビタミンDは、紫外線にあたることにより皮膚でつくられることから、食事からの摂取量による影響が小さかったと考えられます。
研究の限界
この研究では、結果に影響すると考えられる他の要因や質問票の測定誤差の影響をできる限り小さくするように努めました。しかし、栄養素を多く摂取したと答えた人たちが健康的な生活習慣を持っていたために、これらの栄養素が予防的にみえてしまっている可能性が残ります。また、この結果は食事からの栄養素摂取量のものであり、サプリメントの摂取による予防効果は検討していません。