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多目的コホート研究(JPHC Study)

飲酒・喫煙と前立腺がんとの関連について


―「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果報告―

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の10保健所(呼称は2013年現在)管内にお住まいだった、40~69歳の男性約5万人の方々を平成22年(2010年)まで追跡した調査結果にもとづいて、飲酒・喫煙と前立腺がん罹患率との関連を調べた結果を専門誌で論文発表しましたので紹介します(International Journal of Cancer 2014年134巻:971-978ページ)。


飲酒・喫煙と前立腺がん

飲酒・喫煙と前立腺がんについて、数多くの研究がありますが、結果は一致していません。前立腺がんは、前立腺内にとどまる限局がんと、前立腺を超えてひろがる進行がんにわかれ、その病期により、リスク要因・予防要因が異なるという報告もあり、病期にわけた解析が必要とされています。そこで、飲酒・喫煙と前立腺がんの関連を病期別に明らかにすることを目的に行いました。


アルコール摂取量が多いほど、また、喫煙者ほど、進行前立腺がんのリスクが高い

調査開始時のアンケート調査で、飲酒習慣の項目についての回答を基にして、「飲まない(月に1回未満)」グループ、「時々飲む(月に1-3回)」グループ、さらにそれ以上飲むグループをアルコール量によって3つのグループに分けました。喫煙については、「吸わない」グループ、「やめた」グループ、さらに「吸う」グループを喫煙本数×年数によって、3つのグループに分けました。それぞれ、合計5つの飲酒/喫煙状況グループでその後の前立腺がんの発生率を比較してみました。平均で約16年の追跡期間中に、913人の前立腺がんが確認されました。年齢、居住地域、性別、喫煙、飲酒、肥満指数、婚姻状況、糖尿病既往歴、みそ汁・日本茶の摂取の偏りが結果に影響しないように考慮して、飲酒・喫煙との関連を検討しました。
その結果、飲酒と全ての前立腺がんには関連がありませんでしたが、限局がんと進行がんに分けて、飲酒によるリスクを比べたところ、飲まないグループと比べ、アルコール摂取量が多いグループで進行前立腺がんのリスクが高くなりました。飲まないグル―プと比べ、週当たりの摂取量がエタノール換算150g以上グループのリスクが1.51倍と高くなりました。限局前立腺がんでは、飲酒との関連はみられませんでした(図1)。
一方、喫煙と、全ての前立腺がん、および、限局前立腺がんでは、吸わない人に比べて、吸う人のリスクが低くなりました(図2)。しかし、これは、近年のPSA検査の普及により、健康意識が高い人(例:たばこを吸わない人。お酒を多量に飲まない人。)でPSA検査を受ける人のほうが、より前立腺がんが発見される影響(検診バイアス)を反映している可能性がありました。そこで、PSA検査を受けずに、自覚症状で発見された前立腺がんに限定して、飲酒・喫煙との関連をみました(図2)。その結果、飲酒と前立腺がんの結果は変わりませんでしたが、喫煙と前立腺がんは、結果が逆転しており、統計学的有意ではありませんが、吸わないグループとくらべて、たばこを吸うグループの進行前立腺がんリスクが高くなりました。

 図1.飲酒と前立腺がんとの関連

 図2.喫煙と前立腺がんとの関連


飲酒・喫煙と前立腺がんとの関係

飲酒が前立腺がんのリスクになるメカニズムとして、お酒に含まれているエタノールが分解されてできるアセトアルデヒドがもつ発がん性や、アルコールによる前立腺がんリスク要因である性ホルモンなどへ影響、などの可能性があげられます。同様に、喫煙にも前立腺がんの進行を促進させるエストロゲン代謝物を増加させるなどのメカニズムにより、進行前立腺がんのリスク因子となる可能性が考えられますが、喫煙者は進行がんになるまで、病院を受診しない可能性も否定できません。
喫煙と前立腺がんとの関連について、自覚症状で発見された前立腺がんに限ると、すべての対象者で解析した結果と異なりました。これは、自覚症状で発見された前立腺がん対象者の喫煙割合が45.3%であった一方で、PSA検診で発見された前立腺がん対象者の喫煙割合が38.8%と低いことから、PSA検診発見がんを含んだ解析では検診バイアスを強く受けていた可能性があります。一方、自覚症状で発見された前立腺がん対象者の多量飲酒者割合が24.6%であった一方で、PSA検診で発見された前立腺がん対象者の多量飲酒者割合が24.4%と同じであったことから、自覚症状で発見された前立腺がんに限っても結果が変わらなかったと予測されます。


禁煙・節酒により前立腺がんの予防につながる可能性

今回の研究からは、禁煙・節酒による進行前立腺がんの予防効果が期待されます。日本人のためのがん予防法にあるように、がんだけでなく、循環器疾患の予防にもつながる可能性もありますので、禁煙・節酒をこころがけましょう。

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