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多目的コホート研究(JPHC Study)

血中アディポネクチン濃度と肝がん発生との関連について

-多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告-


私たちは、いろいろな生活習慣と、がん、脳卒中、心筋梗塞、糖尿病などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っています。
平成5年(1993年)に、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の6保健所(呼称は2013年現在)管内にお住まいだった40~69歳の方々にアンケート調査への回答をお願いしました。そのうち、必要な情報があり、任意で血液を提供頂いた約1万8千人について、その後平成18年(2006年)まで追跡しました。その調査結果に基づいて、血中アディポネクチンと肝がん発生との関連を調べた結果を専門誌に論文発表しましたのでご紹介します(Cancer Epidemiology Biomarkers Prevention 2013年22巻2250-2257ページ)。

脂肪細胞から分泌されるホルモンであるアディポネクチンは、インスリン(血糖を下げるホルモン)の組織感受性を高める作用が報告されており、脂肪細胞から分泌されるにもかかわらず肥満度(BMI)が高い人ほど血中濃度が低いことが知られています。アディポネクチンは大腸がん、乳がんなど肥満関連がんに対し予防的な関与があると考えられていて、肥満関連がんの一つとされる肝がんにおいてもアディポネクチンが予防的に働く可能性が言われています。実際、肝がん細胞を用いた実験ではアディポネクチンにがん細胞の増殖抑制効果などが報告されています。しかしながらアディポネクチンと肝がんとの関連を調べた疫学研究は少なく、その中では実験報告から予想されるアディポネクチンの肝がん予防効果(アディポネクチン濃度が高いほど肝がん発生が少ない)は認められていません。そこで我々は、血中アディポネクチン濃度と肝がんとの関連について検討を行いました。


保存血液を用いた、コホート内症例対照研究

研究を開始した時期(1993年から1995年まで)に、一部の方から、健康診査等の機会を利用して研究目的で血液を提供していただきました。その中、B型あるいはC型肝炎ウイルス陽性者約1,500人を今回の研究対象集団としました。

追跡期間中、対象集団の中から90人に肝がんが発生しました。肝がんになった方1人に対し、肝がんにならなかった方から年齢・性別・居住地域・肝炎ウイルス(B型かC型か)・採血時の条件・(女性に関しては閉経の有無)をマッチさせた2人を無作為に選んで対照グループとし、合計267人(肝がん90人、対照177人(一部適切な対照が1人しかいなかった))を今回の研究の分析対象としました。

保存血液を用いて血中アディポネクチン濃度(総アディポネクチン、高分子量アディポネクチン)を測定し、それぞれの濃度について低濃度グループ、中間グループ、高濃度グループの3グループに分け、肝がんリスクを比較しました。この際、アディポネクチンと肝がんの関連がインスリンの組織感受性を介したものであるのか検討するために、インスリン感受性に影響するBMIと糖尿病の既往について統計学的手法を用いて調整したり、層別解析を行いました。


アディポネクチン高濃度グループで肝がんリスクは高い

総アディポネクチン、高分子量アディポネクチンいずれも、高濃度グループで肝がん発生リスクが高くなっていました(図1)。この関連は肝がんで死亡した症例に絞っても、採血後7年以内(追跡期間の前半)に発生した肝がんに絞っても観察されました。

図1. 血中アディポネクチン濃度と肝がん発生との関連


また、過体重(BMI25.0kg/m2以上)かそうではないか、糖尿病の既往があるかないか、の2群に分けて、血中アディポネクチンと肝がんとの関連を検討しましたが、過体重であってもなくても、糖尿病の既往があってもなくても、アディポネクチン高濃度グループで肝がん発生リスクが高い傾向を認めました(図2)

図2.血中アディポネクチン濃度と肝がん発生との関連(BMIと糖尿病既往で層化)

 

この研究について

今回の研究では、アディポネクチン濃度が高いほど肝がん発生リスクが高くなるという結果が得られました。これは、アディポネクチンは肥満関連がん予防に働くという知見と相反する結果となりましたが、アディポネクチンと肝がんとの関連を調べたこれまでの疫学研究とは矛盾しません。日本における慢性C型肝炎の患者さんを対象にした先行研究でも、アディポネクチン濃度が高いほど肝がん発生リスクが高くなっていました。また今回、インスリン感受性に影響するBMIと糖尿病の既往を調整しても、あるいはこれらで層別化しても、アディポネクチンと肝がんの関連は変わらなかったので、アディポネクチンと肝がんの関連はアディポネクチンのインスリン組織感受性を介した作用では説明できませんでした。

アディポネクチンは肝臓で代謝されて胆汁から排泄されるため、肝疾患にともない肝機能が低下したり胆汁分泌が停滞すると血中アディポネクチン濃度は高くなります。そのため、今回の肝炎ウイルス感染者集団においては、血中アディポネクチン濃度が肝炎ウイルスによる肝疾患の進行の程度を示していた可能性があります。すなわち、アディポネクチンは肝炎ウイルス感染をベースにした肝がんのリスクマーカーとなっているのではないかと考えました。採血後早期に発生したと思われる肝がん(肝がんで死亡した症例および追跡期間の前半に発生した肝がん)に限定した場合でもアディポネクチンとの関連が観察されたことは、この仮説を指示すると思われました。アディポネクチンと肝がんに関する疫学研究は非常に少ないので、今後の研究において確認していく必要があります。


研究用にご提供いただいた血液を用いた研究の実施にあたっては、具体的な研究計画を国立がん研究センターの倫理審査委員会に提出し、人を対象とした医学研究における倫理的側面等について審査を受けてから開始します。今回の研究もこの手順を踏んだ後に実施いたしました。国立がん研究センターにおける研究倫理審査については、公式ホームページをご参照ください。

多目的コホート研究では、ホームページに保存血液を用いた研究計画のご案内を掲載しています。

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