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多目的コホート研究(JPHC Study)

ヘリコバクター・ピロリ感染と心筋梗塞罹患との関連:CagAとの組み合わせによるリスク

― 「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果報告―

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っています。1990年と1993年の研究開始時に岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古の9保健所管内にお住まいだった方々のうち、循環器病、がんの既往のない40~69歳の男女約3万4千人の方々の協力をいただきました。平成14年(2002年)までの追跡結果に基づき、保存血液を用いたコホート内症例対照研究を行い、ヘリコバクター・ピロリ抗体、ヘリコバクター・ピロリの病原因子のひとつであるCagA抗体価、及びその組み合わせと虚血性心疾患、脳卒中のとの関連について調べました。この研究結果を国際学術専門誌に発表しましたので紹介します(Atherosclerosis 2013年230巻 67-72ページ)。

近年、とくに欧米において、細菌やウイルスによる慢性的な感染症に伴う炎症が動脈硬化を促進すると考えられ、循環器疾患の発症や死亡のリスクとの関連が報告されています。日本では欧米に比べ、ヘリコバクター・ピロリの感染率が高く、多くの人がピロリ菌の病原因子であるCagAを有しています。また、CagAがあると炎症を引き起こし、そのことが循環器疾患につながる可能性があります。しかしながら、日本人において、ピロリ菌感染と虚血性心疾患や脳卒中の発症との関連について、包括的に検討した研究は少ないのが現状です。そこで本研究では、ピロリ菌抗体、CagA抗体、及びその組み合わせと循環器疾患発症のとの関連を分析しました。 

方法

2002年までの追跡調査中に、106人に心筋梗塞、600人に脳卒中の発症が確認されました。分析対象者をピロリ菌抗体(陽性、陰性)、CagA抗体(陽性、陰性)に分けて、さらにその組み合わせについて、年齢、肥満度、最大血圧値、降圧剤服薬の有無、喫煙、飲酒、CRP値を調整したオッズ比を算出しました。

ピロリ菌が分泌する病原因子であるCagA陽性で心筋梗塞の発症リスクが高い

その結果、ピロリ菌抗体の有無と心筋梗塞及び脳卒中の発症との関連は認められませんでしたが、CagAについては、陽性グループで陰性グループに比べ心筋梗塞の発症リスクが高いという傾向が認められました(図1)。また、ピロリ菌抗体とCagA抗体との組み合わせについて検討したところ、ピロリ菌抗体、CagA抗体ともに陰性の人に比べ、ピロリ菌抗体陰性で、CagA抗体陽性の人では、心筋梗塞の発症リスクが3.1倍と高くなりました(図2)。    

図1.CagA と心筋梗塞のリスク 

図2.ヘリコバクター.ピロリ菌抗体、CagAと心筋梗塞のリスク

 

まとめ

今回の研究により、ピロリ菌が分泌する病原因子CagAの有無が心筋梗塞の発症リスクと関連することが示されました。特に、ピロリ菌抗体陰性でCagA陽性の人では、心筋梗塞の発症リスクが高いことがわかりました。ピロリ菌抗体陰性でCagA抗体陽性の人では、CagA遺伝子を持つピロリ菌株に感染したにも関わらず、ピロリ菌抗体が出ていない(ピロリ菌が排除された)ことを示しています。一方、ピロリ菌抗体と心筋梗塞発症との間に関係はありませんでした。以上より、慢性的なピロリ菌感染による心筋梗塞発症の危険因子として、ピロリ菌が分泌する病原因子CagAが重要であると考えられます。

 

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