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多目的コホート研究(JPHC Study)

喫煙・飲酒・肥満度の組み合わせとがん発生・循環器系疾患発症について

-「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果-

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・虚血性心疾患・糖尿病などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っています。

岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県柏崎、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古の9保健所(呼称は2004年現在)管内にお住まいの方々のうち、平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に生活習慣に関するアンケート調査に回答していただいた40~69歳の男女約96,000人を、その後平成15年(2003年)まで追跡した調査結果に基づいて、何らかのがんまたは循環器系疾患の発症割合を予測するモデルを作成しました。その結果を、専門誌で論文発表しましたので、紹介します。
(Preventive Medicine 2009年2月 48巻128-133ページ)

今回の研究では、生活習慣の中で、喫煙・飲酒・肥満度(BMI)という3つの要因に注目しました。いずれも、以前の私たちの研究において、がん全体の発生リスクとの関連が明らかになっているものです。今回の研究では、年齢層別・性別に、各要因やその組み合わせによるグループ分けを行い、各グループの中で10年以内に何らかのがんになるか、あるいは循環器系疾患発症する人の割合(%)を求める予測モデルを検討しました。

約10年の追跡期間中に5797人が何らかのがんと診断され、また2591人に循環器系疾患の発症、2395人に死亡が確認されました。ただし、この死亡件数には、がんまたは循環器系疾患を発症した方は含まれていません。

喫煙・飲酒・BMIの組み合わせでがん・循環器系疾患の発症割合がどれくらい変わるか

調査開始時のデータから、喫煙は1日当たりの本数により4グループ、飲酒は回数と1週間当たりの量によって5グループ、肥満度は身長と体重からBMI(体重(kg)÷[身長(m)]2)を算出して7グループに分けました。また、年齢は5歳ごとに区切って6階層に分けました。そして、性別、年齢階層別に、それぞれの人が持っている各リスク要因の組み合わせでグループ分け(4×5×7通り)し、その後10年間で何らかのがんになるか、あるいは循環器系疾患を発症する人の割合を求める予測モデルを作成しました。

各要因の組み合わせで、がんにも循環器系疾患にもならずに生存する人の割合が最も低くなった、いわゆる最も不健康な組み合わせは、男性では、(喫煙 40本/日以上・飲酒 300g エタノール/週以上・BMI 30kg/㎡以上)、逆に最も高くなった、いわゆる最も健康的な組み合わせは(喫煙 なし・飲酒 時々・BMI 25-27kg/㎡)でした。

分析の結果、50-54歳の男性で、最も不健康なグループでは、最も健康的なグループに比べ、10年間にがんになる人の割合が5.4%(3.0% → 8.4%)、循環器系疾患は6.4%(1.7% → 8.1%)高いという結果が得られました(図1)。年齢層が高くなると、グループによる差は更に大きくなりました。

図1.10年間に全がんまたは循環器疾患を発症する割合(男性)

 
健康的な人は不健康な人に比べて、がんにも循環器系疾患にもならずに生存する

さらに、グループごとに、10年間、がんにも循環器系疾患にもならずに生存する人の割合を予測しました。その結果、50-54歳の男性で、最も不健康なグループでは81.4%であったのに対し、最も健康的なグループでは92.9%と、11.5%高いということになりました。(図2)。

図2.10年間がんにも循環器疾患にもならずに生存する割合(男性)

 
これらの結果から、喫煙者が禁煙、飲酒量の多い人が節酒、肥満度の高い人が適度にやせることにより、がんと循環器系疾患のリスクを同時に下げ、結果としてどちらの病気にもならずに生存する人の割合が高くなることが予測されます。

日本人全体のがん・循環器系疾患減少のためには、まず禁煙と節酒

以上の結果をもとに、日本人全体で、3要因のためにがんと循環器系疾患にならずに生存する人の割合について考察を進めました。まず、多目的コホートで、平均的なリスクを持つ人が、3つのリスク要因のうち1つでも改めた場合に、10年間がんにも循環器疾患にもならずに生存する人の割合がどれくらい高くなるかを検討しました(図3)。

図3.生活習慣リスク要因(喫煙・飲酒・BMI)による10年間がんにも循環器疾患にもならず生存する割合(男性)

 
図3の左端の青い棒は、平均的なリスクを持つグループで、各年齢層において、10年間がんにも循環器疾患にもならずに生存する人の割合です。禁煙した場合と飲酒量を減らした場合は、左端のグラフよりもその割合が上がっています。しかしながら、BMI30以上の肥満を23-27に落とした場合では、それほど変化が見られませんでした。

日本の中高年層の肥満度の分布を欧米人と比較してみると、BMIが30以上の肥満の人は、ヨーロッパで約15-20%、米国で約30%と報告されていますが、日本人では、この研究の対象者でも国民栄養調査結果でも共に2-3%となっており、わが国は、決して欧米のような肥満大国ではないことがわかります。この状況をふまえると、わが国で肥満を対象とした健康政策を進めた場合、対象者が少ないために日本人全体の病気の減少にはつながらないかもしれません。したがって、がんと循環器系疾患を減少させるには、まず禁煙・節酒の健康政策を推進し、その次に対象者を肥満度の高い集団に絞って肥満度を下げる政策をすすめることが、より効果的な予防につながると考えられます。

この研究について

今回の研究の特徴として、それぞれのグループで、10年間でがんまたは循環器系疾患を発症する人は何%なのかという割合を求めたことが挙げられます。例えば、非喫煙者に対し喫煙者の疾病の発症リスクが何倍かという相対的な数値ではなく、全体の中での発症者の割合が何%から何%に増えるかを提示することは、より具体的な情報として、個人の生活習慣を見直す意識の改善につながると考えられます。

しかし今回の研究では、どちらかの病気に関連する生活習慣のうち、喫煙・飲酒・肥満度の3要因しか検討していません。がんや循環器系疾患に影響する生活習慣は栄養摂取量、運動量または臨床検査値など他にも多くの候補があります。また、病気に関しても全がんと循環器系疾患と大きな分類を用いましたが、各部位のがんや糖尿病など他にも評価すべき病気はたくさんあります。

また、今回の予測モデルによる検討は、観察型の研究結果からの推定です。実際にリスク要因となる生活習慣を変えたらどうなったかという直接的な結果を示すものではありませんので、解釈には注意が必要です。

この研究成果を応用して、生活習慣改善によるがん予防法の開発に関する研究班の個別研究として、「がんリスクチェック」(生活習慣の組み合わせによるがん・循環器疾患発症割合-Web上での自己のリスク算出ツール)を開発しました。
https://epi.ncc.go.jp/can_prev/576/2550.html

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