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多目的コホート研究(JPHC Study)

肝機能指標(血中ALT値)と肝がんとの関連について

-「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果-

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っています。平成5年(1993年)に、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の6保健所(呼称は2009年現在)管内にお住まいだった、40~69歳の男女約2万人を平成17年(2005年)まで追跡した調査結果にもとづいて、肝機能指標と肝がんの発生リスクとの関連を調べた結果を専門誌で論文発表しましたので紹介します。
European Journal of Cancer Prevention 2009年18巻26-32ページ

肝臓の障害の主な原因は、肝炎ウイルス、アルコール、薬物、そして自己免疫反応です。肝障害により肝細胞が壊れると、その中からアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT、GPTとも呼ばれる)やアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST、GOTとも呼ばれる)などの酵素が血中に放出されます。そのため、血中ALT値や血中AST値は肝細胞障害を検出する感度の良い指標となります。その基準値は両者とも30 U/L程度以下とされ、肝炎症の程度に応じて高くなることが知られています。

その他、健康診査などの機会に行われる血液検査にガンマ・グルタミルトランスフェラーゼ(GGT、γ-GTPとも呼ばれる)があり、アルコール性の肝障害で特に高くなることが知られています。

ウイルス性の肝障害では、ALT値の上昇がその後の肝がんの発生と強い関連のあることが知られていますが、肝炎ウイルスに感染がない人でも同様のことがいえるのかどうかについてはわかっていません。我が国の肝がんの最大の要因はC型(HCV)及びB型肝炎ウイルス(HBV)感染ですので、肝炎ウイルス感染の有無を考慮して、ALT値と肝がんの発生リスクの関連を検討しました。

今回の研究対象に該当した男女19,812人のうち、3.7%がHCV、2.4%がHBV、0.1%が重複感染という検査結果が得られました。

12年の追跡期間中、109人(男性71人、女性38人)に肝がんが発生しました。その内、69%がHCV、9%がHBV、2%が重複感染でした。肝がんの約80%は肝炎ウイルス感染者から発生していることになります。そして、感染者からの肝がん発生率については、HCV感染者で約10%、HBV感染者で約2%、非感染者では約0.1%でした。

研究開始時の健診結果をもとに、肝機能指標であるALT値が基準値に比べて高い人で、肝がんの発生するリスクが何倍になるかを調べました。

血清中のALT、ASTと肝がんのリスク

まず肝炎ウイルス感染の有無にかかわらず全体で、血清中の肝酵素濃度と肝がん発生との関連を調べました。その際、肝がん関連のリスク要因(肝炎ウイルス感染、年齢、性別、居住地域、飲酒習慣、肥満指数、コーヒー摂取など)の影響を取り除いて検討しました。

この結果、ALT値とAST値は、30 U/Lの基準値以下のグループに比べそれより高いグループでいずれも肝がんの発生リスクが約14倍高いという結果でした。この2つの肝酵素の血中濃度は、どちらかの値が高ければ、ほとんどの場合、もう片方の値も高くなっていました。

図.血中ALT値と肝がん発生リスク

 
肝炎ウイルス感染の有無にかかわらず、ALT値が高いと肝がん発生リスクが高い (図)

次に、肝炎ウイルス感染状況別に、ALT値で分けて肝がんリスクを比べました。ALT値が高いと肝がん発生リスクは高く、ALT値が高ければ高いほど、リスクは高くなる傾向がありました。リスクの増加は、肝炎ウイルスに感染している人でも感染していない人でも同様にみられました。これらの結果から、ALT値は肝炎ウイルス感染状況にかかわらず、肝がん発生を予測する重要なマーカーであると考えられます。すなわち、肝がんになるのを予防するためには、肝炎ウイルス感染に対する治療が重要であると同時に、肝炎ウイルス感染陰性者においても血中ALT値などの肝機能指標をモニターするといった、適切な医療でのフォローが必要であると考えられます。

肝がんを予防するには

肝がんになった人の8割以上がC型またはB型肝炎ウイルス陽性者ですので、肝がん予防のためには、まず健診などの機会に肝炎ウイルス検査を受け、感染していた場合には肝臓の専門医にかかって適切な治療や経過観察をすることが重要です。

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