多目的コホート研究(JPHC Study)
米飯摂取と大腸がんとの関連について
-「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果報告-
私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・虚血性心疾患・糖尿病などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っています。平成7年(1995年)と平成10年(1998-1999年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の10保健所(呼称は2014年現在)管内にお住まいだった方々のうち、45~74才の男女7万3千人の方々を、平成20年(2008年)まで追跡した調査結果にもとづいて、米飯摂取と大腸がん発生率との関連を調べた結果を、専門誌で論文発表しましたので紹介します。 (British Journal of Cancer 2014年 110巻 1316-1321ページ)
日本では、米飯は主食として、主に白米として摂取されています。日本における米飯摂取量低下と大腸がん増加の傾向が同時に見られていることから、米飯摂取により大腸がんのリスクが低くなるかもしれないと考えられる一方で、米飯の摂取量の多い県で大腸がんの死亡率が高いことから、米飯摂取が多いと大腸がんのリスクが高くなるのではないかとも考えられます。この矛盾によって、米飯と大腸がんとの関連は、はっきりとしていませんでした。米飯のあまり摂取されていない欧米からの報告はほとんどありません。今回、米飯を主食とする日本人を対象とした多目的コホート研究で、この関連について検討してみました。
今回の研究対象に該当した73501人のうち、追跡期間中に、1276人(男性777人、女性499人)が大腸がんと診断されました。アンケートの食事項目から算出された1日当たりの米飯摂取量の多少によって、4つのグループに分けて、最も少ないグループに比べ、その他のグループで大腸がんのリスクが何倍になるかを調べました。
全体として、米飯と大腸がんとの関連はみられず
今回の研究では、全体としては、男女ともに、米飯と大腸がんリスクとの関連はみられませんでした。部位を細かくみると、男性で、米飯の摂取が多いと直腸がんのリスクが低くなる傾向がみられました(図1)。パン、麺類、穀類との関連はありませんでした(図2)。
米飯を摂取することの意味
米飯は日本人の伝統的な食事パターンの代表選手ですが、特に食物繊維源やデンプン源として重要な食物です。食物繊維は大腸がんを予防するのではないかと言われていますが、研究結果はまだ一致していません。精米によって食物繊維含有量が減少し、本来食物繊維によって期待できる大腸がん発生に係わりの深い二次胆汁酸の生成抑制がうまくなされなくなります。そのために、予防的な関連がみられなかったのかもしれません。一方、デンプンは短鎖脂肪酸の産生を促して便質に影響を与えることが知られています。デンプンは高インスリン血症を介して、肥満を介した発がんに係わっているのかもしれません。いずれの発がんメカニズムも推測に過ぎず、まだ確定的なものではありません。米飯と大腸がんとの関連があるのだとすれば、それを支持するような疫学研究の結果と説明できるメカニズムが必要なのかもしれません。