多目的コホート研究(JPHC Study)
メタボリックシンドローム関連要因(メタボ関連要因)とがんとの関連について
-「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果-
私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っています。平成5年(1993年)および平成7年(1995年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の10保健所(呼称は2009年現在)管内にお住まいだった40~69歳の男女約2万8千人の方々を、平成16年(2004年)まで追跡した調査結果に基づいて、メタボリックシンドロームとがんとの関連を調べた結果を専門誌で論文発表しましたので紹介します。(European Journal of Cancer Prevention 2009年6月号18巻240-247頁)
今回の研究対象に該当した方27,724人(男性9,548人、女性18,176人)のうち、平均10年の追跡期間中、1,858人(男性986人、女性872人)ががんにかかりました。研究開始時の健診結果をもとに、メタボ関連要因(血圧高値、高血糖、低HDLコレステロール、高中性脂肪、肥満)及びその集積のあるグループが、ないグループと比べ、がんにかかるリスクが何倍になるかを調べました。
本研究ではメタボ関連要因について下記のように定義しました。メタボリックシンドロームについては、5つのメタボ関連要因のうち、1)3つ以上の項目のある人【米国 (AHA/NHLBI) 】、 および肥満の他2つ以上の項目のある人【国際糖尿病連合(IDF)の診断基準(日本も同様) 】の2通りの定義を用いて検討しました。
これによると、対象者のうち各要因のある人の割合は、男性では血圧高値60%、高血糖23%、低HDLコレステロール16%、高中性脂肪30%、肥満30%、女性では血圧高値52%、高血糖12%、低HDLコレステロール28%、高中性脂肪21%、肥満30%でした。さらに、男性では男性の23%、女性の19%が米基準の、また男性の17%、女性の14%がIDF/日本基準のメタボリックシンドロームに当てはまりました。
メタボリックシンドロームがあっても、がんのリスクは増加しない(図1、図2)
メタボ関連要因の集積(いわゆるメタボリックシンドローム)があるグループとないグループ、がんにかかるリスクに差はありませんでした。要因を個別にみても同様で、がんとの関連ははっきりとしませんでした。
部位別に見た場合、男性では肝がん、女性では膵がんで、メタボ関連要因の集積があるとがんにかかるリスクが増加していました。その他の部位については、関連ははっきりしませんでした。
メタボ対策とがん予防
メタボ対策は、もともと、循環器疾患予防のために国をあげて展開されているものですが、それが日本人の最大の死因となっているがんに及ぼす影響についても知っておくことが重要です。今回の結果から、メタボ関連要因やその集積は、がんにかかるリスクを左右するようなインパクトはないことがわかりました。がん予防のためには、たばこ対策など従来から知られている対策が重要といえるでしょう。