多目的コホート研究(JPHC Study)
日本人女性における身体活動量と自己申告腰椎骨折との関連について
―「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果報告 ―
私たちは、いろいろな生活習慣病のリスク要因を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っています。平成5-6年(1993-1994年)に、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の6保健所(呼称は2014年現在)管内にお住まいだった、40~69歳の女性約2万4千人の方々を10年間追跡した調査結果にもとづいて、様々な種類の身体活動量と自己申告による腰椎骨折の罹患との関連を調べた結果を専門誌で論文発表しましたので紹介します。(Osteoporosis International 2014年7月WEB先行公開)
身体活動量については、仕事や余暇の運動を含めた1日の平均的な身体活動時間を、筋肉労働や激しいスポーツをしている時間、座っている時間、歩いたり立ったりしている時間などに分けて調査しました。また、これらの各身体活動を運動強度指数MET(Metabolic equivalent)値に活動時間をかけたMETs(/日)スコアに換算して合計することにより対象者1人1人の平均的な身体活動量を求め、程度別にグループ分けしました。基準となるグループに対するその他のグループの相対的な罹患率を、年齢、体重、カルシウム摂取量、喫煙・飲酒習慣で調整した相対リスクで示しました。対象者約2万4千人のうち、161人に(交通事故などによる骨折を除いた)腰椎骨折の自己申告がありました。
様々な身体活動における各グループの腰椎骨折相対リスク(バーは95%信頼区間)を示しました(下図)。筋肉労働や激しいスポーツをしている時間に関しては、1時間未満の群で腰椎骨折リスクが有意に低いという結果でした(図の①)。座っている時間は、長いほど腰椎骨折リスクが低いという結果でした(図の②)。歩いたり立ったりしている時間およびMETsスコアは、腰椎骨折リスクと関連が見られませんでした。スポーツ活動を行う頻度に関しては、よりスポーツを頻繁に行うほどリスクが低下する傾向が見られ、1~2回/日の頻度で行う群で最もリスクが低下していました(図の③)。
比較的短時間の筋肉労働や激しいスポーツをしているグループで最も腰椎骨折リスクが低い
一般に、身体活動量が多いほど骨粗鬆症性骨折、特に大腿骨のような長管骨の骨折罹患が低いことが知られていますが、身体活動量が多いと(主に海綿骨からなる)腰椎椎体の圧迫骨折罹患率が低いかどうかはよく分かっていませんでした。本研究では、比較的短時間の筋肉労働や激しいスポーツをしているグループで最も腰椎骨折罹患率が低下していました。負荷の大きい身体活動を比較的短時間行うことが腰椎圧迫骨折の予防に有効であることが示唆されました。週1-2回スポーツ活動を行うグループで最も腰椎骨折罹患率が低かったという結果も同じような意味を持つものと推測されます。しかしながら、平均的な身体活動量の指標であるMETsスコアと腰椎骨折には関連が見られませんでした。一般的な生活習慣病予防で推奨されるような全体的な身体活動量を増加させることは、腰椎骨折予防には有効でない可能性も示唆されました。
座っている時間と腰椎骨折リスクは関連する
座っている時間と腰椎骨折リスクとの関連は明らかでした。健康な成人を対象としている本研究では、座っている時間が短いと腰椎骨折リスクが高いと考えるのが妥当かもしれません。座っている時間が短い人は立位での活動が多いはずで、そのような活動を長時間行うと椎体に対して過剰な力学的負荷を与えるため腰椎圧迫骨折のリスクを上昇させる、という理由が考えられます。ただ、本研究結果の1つである歩いたり立ったりしている時間と腰椎骨折リスクに関連が見られなかったことが、この理由と矛盾しているように思われるかもしれません。今回用いた調査票では、3時間以上歩いたり立ったりしている人を1つのグループ(全体の70%)とせざるを得ず、3時間以上の長時間立位活動を詳細に分類できなかったため、歩いたり立ったりしている時間と腰椎骨折リスクに関連性を見出せなかったものと思われます。
大腿骨頸部骨折との比較
大腿骨頸部骨折に関しては、メタ解析研究により、身体活動量の最も多いグループのリスクは最も少ないグループより40%ほど低いことが報告されており、身体活動量が多いほど頸部骨折予防に有利と考えられています。しかしながら、腰椎骨折に関しては、身体活動量が多いほどリスクが低くなるとは言えず、むしろ無理のない程度の身体活動が腰椎骨折予防の観点から「適度な身体活動」と言えるようです。私たちのこれまでの研究から、日本人の中高年者の低カルシウム摂取が腰椎骨折のリスクを上昇させていることが明らかになっており、腰椎骨折予防のためには適度な運動と適切な栄養摂取の両方が重要と言えます。今後は、腰椎骨折のリスク関わる身体活動と栄養の相互作用を研究する必要があると考えています。
今回の研究の限界
今回の研究の限界は、腰椎骨折の発生を自己申告によって調査したことです。自己申告では、骨折発生の有無を間違って答えてしまう場合に、実際は骨折したのにしなかったと答える人の方がその逆よりも多いと予想されます。その結果、身体活動量と骨折との関連が、実際より薄まって見えてしまう可能性があります。ですから、そのような誤申告を考慮に入れると、身体活動と腰椎骨折の関連性はもう少し高いかもしれません。ただ、自己申告による調査の利点もあります。自己申告の腰椎骨折は、多くの場合症状のある骨折であり(レントゲンによる診断で腰椎骨折を調査すると、症状のない腰椎骨折も把握します)、それゆえ、今回の研究結果は、症状を伴う腰椎骨折の予防研究であると言いかえることもできるかもしれません。 今回の研究により、適度な身体活動により腰椎骨折が予防できることが示唆されました。これをさらに確かめるには、今後介入研究を行うことが必要です。