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多目的コホート研究(JPHC Study)

メタボリックシンドローム関連要因(メタボ関連要因)と循環器疾患発症との関連

-「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果-

私たちは、様々な生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っています。平成5年(1993年)および平成7年(1995年)およびに、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古の9保健所(呼称は2006年現在)管内にお住まいだった、40~69歳の男女約2万3000人の方々を平成15年(2003年)まで追跡した調査結果に基づいて、メタボリックシンドロームおよびその関連要因と循環器疾患発症との関連を調べた結果を日本高血圧学会の英文誌に発表しましたのでご紹介します。(Hypertension Research 2009年32巻289-298ページ)

「メタボリックシンドロームは日本人における循環器疾患にどれだけ寄与しているか?」

日本人において、メタボリックシンドロームと循環器疾患発症との関係を調べた大規模な研究はほとんどありません。日本人では欧米人と比べ肥満者の割合が小さく、欧米人の研究成果を当てはめることは困難であるため、日本人における検討が必要とされていました。

今回の研究では、研究開始時の健診データを用いて、代表的な診断基準である米国 (AHA/NHLBI) および国際糖尿病連合(IDF)の診断基準(日本も同様)に準じてメタボリックシンドロームの有無を調べ、その後の脳卒中発症および虚血性心疾患発症のハザード比および寄与危険度割合を計算しました。

表.本研究におけるメタボ関連要因とその集積の定義

 
「メタボリックシンドロームは虚血性循環器疾患と関係する」

平均で約11年の追跡期間中に、男性395年、女性298人が循環器疾患(脳卒中または虚血性心疾患)と診断されました。分析の結果、メタボリックシンドロームは虚血性循環器疾患(虚血性心疾患および脳卒中のうち脳梗塞)の発症と関係していることが明らかになりました(図1)。

図1.メタボリックシンドロームと各循環器疾患発症との関係

 
その関係は男性において顕著に見られましたが、女性では認められませんでした。また、メタボリックシンドロームと出血性脳卒中(脳内出血およびくも膜下出血)の発症との関係は認められませんでした。

「血圧高値の寄与はメタボリックシンドロームの寄与を上回る」

一方、血圧高値またはメタボリックシンドロームが原因で、それらがない場合に比べ過剰に発症したと推定される虚血性循環器疾患の割合(寄与危険度割合)を調べたところ、血圧高値は男性で48%、女性で45%であった一方、メタボリックシンドロームは20%未満と、血圧高値の方がより影響が大きいことがわかりました(図2)。すなわち、この対象集団においては、メタボリックシンドローム以上に、血圧高値を保有する人の割合およびリスクが高いことが示されました。

また、米基準のメタボリックシンドロームと比較して、肥満を必須とするものの影響がより小さいことが示されました。

図2.血圧高値およびメタボリックシンドロームによる虚血性循環器疾患発症の寄与危険度割合

 
「肥満を必須としたメタボリックシンドロームでは非肥満の高リスク者を見落とす可能性がある」

メタボリックシンドロームの診断基準に肥満を必須とすることが寄与危険度割合に与える影響を調べるため、BMI25未満と25以上でグループ分けした上で、その他のメタボ関連要因の保有状況と虚血性循環器疾患発症との関係を調べました(図3)。その結果、「BMI25未満でその他のメタボ関連要因を2つ以上有する者」の寄与危険度割合が、男性で20%、女性で14%と、虚血性循環器疾患発症に大きく寄与していることが明らかになりました。このことは、過体重を必須としたメタボリックシンドロームの診断基準では高リスク群を見落とす可能性があることを示しています。

さらに、AHA/NHLBIおよびIDFの両診断基準でメタボリックシンドロームなしと診断される、「BMI25未満でかつメタボ関連要因を1つ有する者」の寄与危険度割合は、男性で13%、女性で11%であり、虚血性循環器疾患発症に大きく寄与していることが明らかになりました。このことは、メタボ関連要因が1つだけのグループの寄与が日本人の循環器疾患では大きく、メタボ関連要因の集積によって定義されるメタボリックシンドロームではこの非集積型の高リスク群を見落とす可能性があることを示しています。

図3.肥満の有無別に見たメタボリックシンドローム因子数による虚血性循環器疾患発症の寄与危険度割合

 
「メタボリックシンドローム対策以上に高血圧対策を行うことが日本人の循環器疾患予防において重要である」

今回の結果は、血圧高値と比較して、メタボリックシンドロームは循環器疾患発症に対する関係も寄与も小さく、さらに肥満を必須としたメタボリックシンドロームでは非肥満の高リスク群を見落とす可能性があることを示しています。同じ多目的コホートからの別の研究(「血圧区分と循環器疾患との関係」)では、血圧値を至適レベルにすることで脳卒中発症の50%以上、全循環器疾患死亡の30%以上を予防できると推定されており、高血圧対策が公衆衛生対策の大きな柱であることが示されています。

現在、国の生活習慣病対策として、メタボリックシンドロームを中心とした特定検診・特定保健指導の他に、健康日本21が推進されており、その中では高血圧対策が目標の一つとして挙げられています。日本人の循環器疾患予防対策では、メタボリックシンドローム対策以上に、高血圧対策を推進していくことが重要であることを今回の研究結果は示唆しています。

 

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