多目的コホート研究(JPHC Study)
コレステロールおよび卵の摂取と糖尿病との関連について
―「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果報告 ―
私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、東京都葛飾区、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の11保健所(呼称は2014年現在)管内にお住まいだった40~69歳の方々に、食事調査を含む生活習慣についてのアンケートに回答していただきました。5年後の平成7年(1995)年と平成10年(1998年)には、より詳しい食事調査を含む2回目のアンケートで、当時の生活習慣について回答していただきました。そのうち、1回目と2回目の調査時点で糖尿病、循環器疾患にもがんにもなっていなかった男女約6万3000人の方々を、2回目の調査時点から平均約5年追跡しました。これらの調査結果にもとづいて、コレステロールおよび卵の摂取と糖尿病発症との関連を調べた結果を、専門誌で論文発表しましたので紹介します(British Journal of Nutrition 2014年9月WEB先行公開)。
本邦での糖尿病有病率は、脂質や肉の高摂取に特徴づけられる食の欧米化とともに1950年代から増加しており、これまでに肉の高摂取と糖尿病リスク増加との関連が報告されています。コレステロールの摂取に関しては、欧米の研究で糖尿病リスク増加との関連が報告されていますが、欧米人のコレステロールの主要な摂取源である肉の影響は考慮されていません。また、日本人におけるコレステロールの主要な摂取源である卵と糖尿病の関連については、欧米での研究結果は一致していません。これまでに、日本での報告はなく、今回、多目的コホート研究において、コレステロールおよび卵の摂取と糖尿病発症との関連について男女別に検討しました。
男女ともにコレステロールの高摂取では糖尿病発症リスクは上がらない
研究開始から5年後に行なったアンケート調査の結果を用いて、コレステロールおよび卵の摂取量により、それぞれ4つのグループに分類し、その後5年間の糖尿病発症(男性672人、女性493人)との関連を調べました。糖尿病の発症は、研究開始10年後に行った自記式調査で、上記追跡期間内に糖尿病と診断されたことがある場合としました。分析にあたって、コレステロールと卵の摂取以外の糖尿病発症に関連する要因(肥満度、喫煙、飲酒、身体活動、高血圧歴、糖尿病の家族歴、コーヒー摂取、マグネシウム摂取、カルシウム摂取、米摂取、魚介類摂取、肉類摂取、野菜摂取、清涼飲料摂取、エネルギー)の影響をできるだけ取り除きました。 その結果、男女ともにコレステロールの摂取量が多いグループ(約400mg/日以上の群)で、糖尿病発症リスクは上昇していませんでした。むしろ、統計学的に有意ではないものの、女性では摂取量が最も少ないグループに比べ最も多い群では糖尿病のリスクは23%低くなっていました(図1)。
閉経後女性において、コレステロールの摂取により糖尿病発症リスクが低下
次に、女性において閉経の有無別に分析をしたところ、閉経後女性においてコレステロールの摂取は糖尿病リスク低下と関連していました。しかし、閉経前女性では糖尿病リスクとの関連はみられませんでした(図2)。
男女ともに卵の高摂取で糖尿病発症リスクは上がらない
また、男女ともに卵の摂取量が多いグループ(1日に卵1個以上摂取する群)で、糖尿病発症リスクは上昇していませんでした。統計学的に有意ではありませんが、女性では摂取量が最も少ないグループに比べ最も多い群では糖尿病のリスクが18%低くなっていました(図3)。
今回の研究では、男女ともにコレステロールの摂取による糖尿病発症リスク増加は見られませんでした。むしろ、閉経後女性では、コレステロールの摂取により糖尿病発症リスクが低下する可能性が示されました。その理由として、下記のようなメカニズムの可能性が考えられます。閉経後女性ではコレステロールの高摂取により血中のエストロゲンレベルが増加することが疫学研究で報告されています。さらに、閉経後女性における介入研究では、エストロゲン補充療法により糖尿病発症リスクが低下することが確認されています。
今回の研究では、全対象者に実施された食物摂取頻度アンケート調査から、各グループの1日当たりのコレステロール摂取量(中央値)を算出すると、最も少ないグループは、男性では169mg、女性では167mg、最も多いグループは、男性では423mg、女性では390mgでした。これらの値は、対象者の一部に実施されたより直接的な食事記録調査から算出された値と対比すると、男性では18-20%、女性では9-11%少なく見積っています。 多目的コホート研究などで用いられる食物摂取頻度アンケート調査は、摂取量による相対的なグループ分けには適していますが、それだけで実際の摂取量を正確に推定するのは難しく、また年齢や時代・居住地域などが限定された対象集団の値を一般化することは適当とは言えませんので、ここに示した摂取量はあくまで参考値にすぎません。