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多目的コホート研究(JPHC Study)

教育歴と職業における社会的地位の不一致と脳卒中発症リスクとの関連について

―「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果報告 ―

 

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部の4保健所管内にお住まいの40~59歳の女性約1万5千人の方々を平成21年(2009年)まで約20年間追跡した調査結果にもとづいて、教育歴と職業における社会的地位の不一致と脳卒中発症との関連を調べた結果を発表しましたので紹介します。(Stroke 2014年 45巻 2592-2598ページ)

 

高学歴女性の脳卒中発症リスクは高い?

欧米では「社会的地位の不一致」が自覚的健康感の悪化や循環器疾患の発症と関連があることが報告されています。つまり、教育歴が高いにもかかわらずそれに見合った職業についていないこと、あるいは逆に受けた教育レベル以上に社会的地位の高い職業についていることが健康に悪い影響を与える可能性が示されています。 わが国における女性の高学歴化は急速に進んでいますが、必ずしも多くの女性が教育レベルに見合った社会的地位の職業についているわけではなく、そのため「社会的地位の不一致」による健康影響の可能性が考えられます。

職業的地位、所得、教育歴等で表現される社会的地位が低い人は、高い人と比べて虚血性心疾患や脳卒中の発症リスクが高いことは多くの研究により報告されています。しかし、私どもは以前に高校卒業者と比較して中学卒業者ならびに短大・専門学校・大学以上の女性の脳卒中発症リスクが高い、いわゆるU型の関連を報告しました。(https://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/326.html)その際、高学歴の女性で脳卒中リスクが高い理由についてはよくわかりませんでした。そこで、今回、日本女性において社会的地位の不一致が脳卒中発症リスクと関連しているのではないかと考え、検討しました。

今回の研究では、研究開始時に行った最終学歴に関するアンケートから、女性を対象に①中学卒業(1点)、②高校卒業(2点)、③短大・専門学校卒業(3点)④大学以上(4点)の4グループに、また職業によって①肉体労働(1点)、②サービス・販売(2点)、③事務(3点)、④専門・管理職(4点)の4グループに分類しました。その上で教育歴のスコアーから職業のスコアーを引いて、社会的地位の不一致得点(-3~+3点)を計算し、①資格不足(教育<職業:-2点以下)、②妥当(教育歴=職業:-1, 0, +1)、③資格過剰(教育歴>職業:+2点以上)の3グループに分類しました。約20年間の追跡期間中に、597人の脳卒中発症が確認されました。

 

職業的地位に対して教育歴が高い女性の脳卒中発症のリスクが高い

職業的地位と教育歴が妥当なグループと比べ、資格過剰のグループの脳卒中発症リスクは約2倍という結果でした。一方、資格不足群では関連は見られませんでした。 (図1)

 図1.社会的地位の不一致と脳卒中発症リスク

次に、教育歴と職業別の脳卒中発症リスクをみると、特に大学卒業女性で肉体労働や次いで販売・サービス職についている女性の脳卒中発症リスクが高いことがわかります。(図2)。

 図2. 教育歴・職業と脳卒中発症リスクの関連

今回の結果から、日本においても、欧米の結果と同様に社会的地位の不一致が脳卒中発症リスクと関連することが示されました。特に高学歴にもかかわらず職業的地位の低い仕事についている女性の脳卒中リスクが極めて高いことがわかりました。

 

なぜ資格過剰群で脳卒中リスクが高いのか?

社会的地位の不一致によって脳卒中発症リスクが異なる理由の一つに、社会的地位指標の不一致により脳卒中発症のリスク要因の一つである心理的ストレスが上昇することが考えられます。社会的地位の不一致は投資した教育に応じた職業につけないことによる不満や、教育と職業それぞれから推定される社会的地位の不一致から生じる役割葛藤を生じさせ、心理的ストレスレベルを上昇させることがわかっています。

 

この研究について

今回の研究では所得に関する情報がなく所得を考慮に入れることは出来ませんでした。今後、社会的地位を示すより総合的な指標を用い、検討を重ねる必要があると考えられます。また、ベースライン時の職業は人によっては研究期間中に変化している可能性もあります。 以上のような点に注意する必要はありますが、本研究の結果は女性の高学歴化ならびに就労が進む中、教育歴レベルと職業的地位との不一致がもたらす健康影響に注意を払う必要があることを示唆するものです。

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