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多目的コホート研究(JPHC Study)

血圧区分と循環器疾患発症リスクおよび死亡リスクとの関連

-「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果-

私たちは、様々な生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)および平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古の9保健所(呼称は2006年現在)管内にお住まいだった、40~69歳の男女約3万人の方々を平成15年(2003年)まで追跡した調査結果にもとづいて、血圧区分と循環器疾患発症との関連を調べた結果を論文発表しましたのでご紹介します。
(American Journal of Hypertension, 2009年22巻273-280ページ)

高血圧は現在の日本人の循環器疾患にどれだけ寄与しているか?

高血圧は循環器疾患の最も重要な危険因子であり、循環器疾患の予防を目的として高血圧対策が行われてきました。しかしながら、近年、日本では、平均血圧値の低下が鈍化し、循環器疾患の死亡率の低下も緩やかになりつつあります。1970年代には重症高血圧者が減少し、1980年代に入り中等度の高血圧者が減少した結果、より最近の日本人における高血圧の循環器疾患に対する寄与について再検討することは、公衆衛生上重要な課題となっていました。

今回の研究では、参加者の約3割の人を対象として、研究開始時に血圧測定を行っています。今回の検討では、研究開始時の血圧値を基に、2003 年に発表された欧州における血圧値のガイドライン(European Society of Hypertension-European Society of Cardiology guidelines)の基準に従って、①至適血圧(収縮期120mm Hg未満かつ拡張期80mm Hg未満)、②正常血圧(同120-129mm Hgまたは80-84mm Hg)、③正常高値(同130-139mm Hgまたは85-89mm Hg)、④軽症高血圧(同140-159mm Hgまたは90-99mm Hg)、⑤中等度高血圧(同160-179mm Hgまたは100-109mm Hg)、⑥重症高血圧(同180mm Hg以上または110mm Hg以上)、に分けて、その後の脳卒中および虚血性心疾患の発症および死亡の相対危険度(ハザード比)および寄与危険度割合について計算を行いました。

寄与危険度割合
危険因子Aが疾病Bに及ぼす影響を調べる際には、「危険因子Aを持つ人は、何倍、疾病Bにかかりやすいか?」ということを示す「相対危険度」という指標を用いることが多いのですが、危険因子Aの公衆衛生上の重要性を示す場合には、「危険因子Aは、疾病Bの発生の何%に寄与しているか?」を示す「寄与危険度割合」という指標を用います。危険因子Aによる「寄与危険度割合」は、「危険因子Aをゼロにすることで何%の疾病Bを減らせるのか?」ということを示す値であり、公衆衛生対策を行う上でその対策の効果を予測する際に用います。

血圧高値は50%以上の脳卒中発症に寄与する

約11年の追跡期間中に、脳卒中の発症912人、虚血性心疾患の発症182人が確認されました。分析の結果、②正常血圧(図1の空色の領域)から⑥重症高血圧(図1の赤い領域)の血圧区分が、男性で64%、女性で50%の脳卒中発症に寄与していることが明らかになりました(図1)。各区分の寄与を見ると、⑥重症高血圧では相対危険度は高いものの人口割合が小さいため、寄与危険度割合は5%しかありませんでした。一方、④軽症高血圧(図1-2の黄色い領域)では相対危険度は⑥重症高血圧ほど高くないものの人口割合が大きいため、寄与危険度割合は、男性で29%、女性で17%と、各血圧区分で男女共に最大の寄与を示していました(図1)。

図1.血圧区分と脳卒中発症との関係

 
同様の傾向は、他の循環器疾患の発症や死亡においても見られ(図2)、②正常血圧(図2の空色の領域)から⑥重症高血圧(図2の赤い領域)の血圧区分が、脳卒中死亡で男性の67%、女性の29%、全循環器疾患死亡で男性の38%、女性の36%に寄与していました。

図2.血圧区分と循環器疾患発症・死亡との関係 血圧区分ごとの寄与危険度割合

 
高血圧対策が日本人の循環器疾患予防において重要

今回の結果は、日本人の循環器疾患予防における高血圧対策の重要性を改めて示したものといえます。過去数十年間に亘って血圧値や循環器疾患死亡率が大幅に減少してきた現在の日本人であっても、至適血圧を達成することで脳卒中発症の50%以上、全循環器疾患死亡の30%以上を予防できると推定され、高血圧対策は未だ公衆衛生対策の大きな柱であることを示しています。さらに、今回の検討結果は、中等度高血圧および重症高血圧と共に、軽度高血圧を減らしていくことが、日本人の循環器疾患を予防していく上で重要であることを示しています。

今後の課題

今回の研究の限界としては、血圧測定が一回しか行われていないことが挙げられます。過去の欧米における研究では、繰り返し測定された血圧値を用いた場合と比べて、一回のみの測定による血圧値を用いた場合では、血圧値と循環器疾患リスクとの関係は過小評価されることが指摘されています。それでもなお、正常よりも高い血圧で相当の寄与危険割合が得られたことは、循環器疾患予防における血圧対策の重要性をはっきりと示しています。

 

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