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現在までの成果

居住地の不安定性および剥奪水準と喫煙・禁煙との関連について

-「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果報告-

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞・糖尿病などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)と平成12年(2000年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部の4保健所管内にお住まいの40~59歳の方々を対象にアンケート調査を実施した結果にもとづいて、喫煙状態および10年後の禁煙を予測する居住地域の要因について調べた結果を論文発表しましたので紹介します。(Health & Place 2014年11月WEB先行公開)

 

居住地の特徴によって喫煙・禁煙の状況は異なるのか

欧米を中心とした近年の研究では、健康を規定する要因として、個人の要素だけではなく、居住地の環境を考慮することの重要性が指摘されてきました。喫煙についても、地理的剥奪指標(以下、剥奪指標)として表される近隣地区における貧困の水準が、その地区住民の喫煙状況と関連していることは数多く報告されてきました。また、住民の入れ替わりが少ないという居住の安定性は、社会的なつながりやまとまりを形成し、健康に関する規範意識や情報の共有を促すことで喫煙行動に影響するという指摘もあります。つまり、喫煙・禁煙を規定する個人的な要因に加えて、地域的な要因を考慮する必要があるといえます。

ところが日本におけるこれまでの研究では、都道府県や市町村といった比較的大きな地域単位や、学校・職場といった居住地とは異なる環境についての分析に限られており、より身近な生活圏である近隣地区の環境が、住民の喫煙・禁煙行動とどのように関連しているのかについては明らかになっていませんでした。

 

居住不安定性が高い地区の女性は喫煙しやすい

この研究では、旧村(1950年時点の市町村)を近隣地区とみなして、対象者の居住年数から算出された居住不安定性と、国勢調査を利用して作成された剥奪水準という二つの地理的指標を準備しました。そして、それらの地理的指標と、地区住民の1990年時点における喫煙(n=40,961:男性19,687、女性21,274)および10年後の禁煙(n=9,177:男性8,307、女性870)の状況との関連を分析しました。

まず、居住不安定性については、最も安定した地区のグループであるQ1を基準とすると、女性の場合、居住不安定な地区に住む人ほど喫煙しやすい傾向が認められました(図1)。男性については、ごく弱い関連しかみられませんでした。不安定性の高い地区では、女性の喫煙に対する規範意識や健康行動を促す社会的つながりが弱く、結果として喫煙しやすい地域環境が形成されていたものと考えられます。このことはまた、男性に比べて女性のほうが居住地における社会環境の影響を受けやすいとする先行研究の指摘とも一致します。しかし、10年後の禁煙については、男性・女性ともに居住不安定性との関連はみられませんでした。

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居住地の剥奪指標については、剥奪水準が高い地区ほど喫煙しやすいという多くの先行研究と異なり、男女とも喫煙との関連はみられませんでした。欧米では、貧困地区ほどタバコが入手しやすい点などが理由と考えられてきましたが、日本では当てはまらない可能性があります。ただし、女性については、剥奪水準が高い地区に住む喫煙者ほど10年後に禁煙しやすいという傾向が認められました(図2)。この結果については、剥奪水準が高い地区に住む人ほど健康を損ないやすく喫煙を止められる可能性が高いことや、タバコの値上げによる経済的負担が相対的に大きいという理由が考えられます。ただし、女性においてのみ関連がみられる点については説明が難しく、今後さらに研究を進める必要があります。

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この研究について

以上の結果から、日本においても、居住地の社会経済的環境が住民の喫煙・禁煙の状況と関連することが読み取れます。したがって、近隣地区の状況を考慮したうえでの喫煙対策を検討していく必要性が示唆されます。ただし、このような関連性は男性よりも女性において顕著にみられる点に特徴があり、喫煙率そのものに加えて、近隣環境の健康影響についても性差に注目していく必要があるといえます。また、本研究の対象は1990年時点で40~59歳の方々であり、地理的にも大都市圏を含んでいないという条件があります。都市部に住む若年女性の喫煙に対する居住地の影響などについては、今後の重要な研究課題となります。

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