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多目的コホート研究(JPHC Study)

肺がん・大腸がん・胃がんの予後の変遷について

-「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果-

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・虚血性心疾患・糖尿病などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っています。そのデータを用いて、肺がん・大腸がん・胃がんに関して、がんと診断された患者さんの予後の傾向を調査した結果を論文発表しましたので、紹介します(Cancer Epidemiol.2015 Feb;39(1):97-103)。

今回の研究では、平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、大阪府吹田、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古の10保健所(呼称は2012年現在)管内にお住まいだった、40~69歳の男女約10万人の方々のうち、平成18年(2006年)までの間に、肺がん・大腸がん・胃がんのいずれかを罹患した4,403人の方々を調査対象とし、平成24年(2012年)まで追跡した調査内容にもとづき、がんと診断された患者さんの予後の傾向(がんで亡くなるリスク)について分析しました。その結果、1998年までの8年間と、1999年以降の8年間を比べると、肺がんと大腸がんにおいて、がんと診断された患者さんの予後が改善されていることが示されました。

肺がん・大腸がんの患者さんで予後が改善

追跡期間中に971人に肺がん、1729人に大腸がん、1703人に胃がんの罹患がそれぞれ確認されました。各がん患者さんの予後について、1990年から1998年の間にがんと診断された患者さんと、1999年から2006年の間にがんと診断された患者さんとで比較しました。その結果、1999年から2006年の間に肺がんあるいは大腸がんと診断された患者さんの予後は、1990年から1998年の間に肺がんあるいは大腸がんと診断された患者さんの予後と比較して改善傾向にあることが示されました(図1)。一方、胃がんについては1990年から1998年の間に胃がんと診断された患者さんと、1999年から2006年の間に胃がんと診断された患者さんとの間で、予後の改善傾向は認められませんでした(図1)。

 

肺がん・大腸がん・胃がんの予後の変遷について

 

また、早期がんと診断された患者さんの予後の改善傾向と、進行がんと診断された患者さんの予後の改善傾向には、1990年~1998年と1999年~2006年との間で違いは認められませんでした。

 

前向き追跡研究として初めてがん予後の変遷を検証した

今回の研究では、同一地域にお住いの方々を長期間追跡した研究として初めて、がん予後を検証し、肺がんと大腸がんで予後が改善傾向にあることが示されました。

この研究について

今回の研究において肺がんと大腸がんで1999年以降がんと診断された患者さんの予後改善が認められた背景として、手術技術や治療薬の進歩が考えられます。特に肺がんにおいては1994年から1999年の間に第三世代抗がん剤と呼ばれる薬剤が承認され広く使われるようになったことやイレッサが2002年に承認されたことが進行肺がんの予後の改善に寄与した可能性が考えられます。また、大腸がんでは新たな内視鏡治療法(内視鏡的粘膜切除術)が1995年に保険収載されたことが早期がんの予後改善に寄与した可能性が考えられます。大腸がんにおいては2000年前後にFOLFOXやFOLFIRIといった新たな化学療法が確立され、さらに、2007年から2010年にかけてはベバシズマブ等の新たな抗がん剤が承認されたことが、進行がんの予後の改善に寄与した可能性が考えられます。一方で胃がんにおいては、1999年前後で予後の改善傾向に差が認められなかった背景として、今回の追跡対象期間においては、胃がん予後に影響を与えるような診断治療技術の変化が存在しなかった可能性が考えられます。

今後は具体的にどのような診断治療技術ががん予後の改善に寄与したのかを詳細に検証する必要があると考えられます。

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