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多目的コホート研究(JPHC Study)

居住地域の貧困度とがん

-「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果-

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞・糖尿病などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古の9保健所(呼称は2015年現在)管内にお住まいだった、40~69歳の男女約8万6千人の方々を平成21年(2009年)まで追跡した調査結果にもとづいて、居住地域環境の貧困度と、がんの罹患・死亡リスク、がん罹患者の死亡リスクとの関連を調べた結果を専門誌で論文発表しましたので紹介します。(PLoS One. 2014 Sep 3; 9(9):e106729)

健康を規定する要因として、個人の要素だけではなく、居住地域の環境を考慮することの重要性が指摘されており、がんの罹患や死亡、生存率についても、その影響を受けることが示唆されています。欧米を中心とした近年の研究では、地域環境の貧困度の高い地域でがんの生存率が低く、診断や治療の遅れがその理由のひとつと考えています。日本は国民皆保険制度に支えられ、医療には平等にアクセスできるしくみが整えられていますが、実際には、がん生存率に地域環境の貧困度が影響を与えているという報告もあります。しかしながら、これまで、大規模な観察研究を用いた解析は行われていませんでした。ここでは、居住している地域環境の貧困度によってがんの罹患や死亡リスク、そしてがん罹患者の死亡リスクに差があるのかどうかを検討しました。

男女合計86112人(男性40883人、女性45229人)が分析の対象になりました。このうち、平均15.7年の追跡期間中に、10416人が何らかのがんに罹患し、また、5510人が何らかのがんで死亡しました。今回の研究では、1995年の国勢調査の様々な指標を合わせ用いて中谷らにより推計された地理的剥奪指標を居住地域の貧困度の指標として用いました。計算方法は英国や欧州で用いられているものと同じです。この指標の大きさにより4つの群に分けて、がんの罹患・死亡リスクやがん罹患者の死亡リスクを比較してみました。

居住地域の貧困度とがんとの関係ははっきりしない

がん全体でみると、居住地域の貧困度と罹患・死亡リスクやがん罹患者の死亡リスクとの関連は、明確ではありませんでした。

部位別に見ると、貧困度の高い群で、男性では大腸がん、直腸がん罹患リスクが低く、女性では大腸がんや直腸がん死亡リスクが低くなっていました。その他の部位では意味のある関連はみられませんでした。

 

 居住地域の貧困度とがん図1

 

居住地域の貧困度とがん図2

 

以上、この解析では、日本人においては、居住地域の貧困が、がんの罹患や死亡リスク、がん罹患者の死亡リスクを増大させるような、欧米の研究に見られる傾向は明らかではなく、居住地域レベルでみた貧困の度合が、がんのリスクに相応の影響を及ぼしているとはいえない結果となりました。今後、居住地域の貧困度などを指標にした日本における格差の拡大傾向や、そのことが日本人の健康長寿にどのような影響を与えるようになるのか、さらに研究を重ね、注意深く見守って行く必要があるでしょう。

 

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