多目的コホート研究(JPHC Study)
米飯摂取と循環器疾患の発症・死亡との関連
-「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果-
私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防や健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古の9保健所(呼称は2015年現在)管内にお住まいだった方々のうち、40~69歳の男女約9.1万人を、平均15-18年間を追跡した調査結果に基づいて、米飯摂取と循環器疾患の発症・死亡との関連を調べた結果を専門誌(Am J Clin Nutr 2014年 100巻199-207ページ)に発表しましたので紹介します。
米飯は日本人の重要な主食であり、総摂取カロリーの約29%を占めています。これまでに、私たちは米飯の摂取と2型糖尿病のリスクを検討し、女性でリスク上昇がみられたことを報告しました。一方、米飯と循環器疾患との関連は、これまでにほとんど報告されていません。そこで、多目的コホート研究で、日本人における米飯の摂取と循環器疾患発症・死亡との関連を分析しました。
研究開始とその5年後、10年後に行われたアンケート調査の結果を用いて、米飯の摂取量を一日あたりのグラム数に換算(標準茶碗1杯240g)し、少ない順に5つのグループに等分しました。約15-18年追跡し、その後の循環器疾患発症・死亡のリスクをグループ間で比較しました。
追跡調査中に、4,395人の脳卒中と1,088人の虚血性心疾患の発症及び2,705人の循環器疾患による死亡が確認されました。
米飯摂取別の5つのグループの間で、最も低いグループを基準として、それぞれのグループの循環器疾患発症・死亡のリスクを算出しました。その際、年齢、性、肥満度(BMI)などの交絡因子(高血圧・糖尿病の既往、高脂質血症に対する服薬、喫煙・飲酒、運動時間、地域、職業、魚貝類、肉類、果物、野菜、カリウム、大豆、女性の閉経状況とホルモン剤使用)が結果に影響しないように統計学的に補正して検討しました。さらに、上記の関連を肥満の有無(BMI<25.0と≧25.0kg/m2)で分けて調べました。
米飯の摂取と脳卒中・虚血性心疾患発症のとの間に関連なし
循環器疾患の死亡については、米飯摂取の最も低いグループ(平均251g/日)に比べ、最も高いグループ(平均542g/日)において、脳卒中と虚血心疾患のどちらも発症リスクの増加は認められませんでした。もっとも低いグループを1とした場合、最も高いグループの脳卒中のリスク(95%信頼区間)は1.03(0.82-1.30)、虚血性心疾患では0.93(0.68-1.27)でした(図1)。さらに、肥満の有無別(BMI<25.0kg/m2と≥25.0kg/m2)に検討しましたが、いずれも関連はみられませんでした。
米の摂取と脳卒中・虚血性心疾患死亡のリスクにも関連なし
次に、循環器疾患の死亡について検討しました。その結果、米の摂取の最も低いグループに比べ、最も高いグループにおいて、脳卒中と虚血性心疾患のどちらも死亡リスクの増加は認められませんでした。米の摂取の最も低いグループを1とした場合、最も高いグループのリスク(95%信頼区間)は脳卒中で1.01(0.90-1.14)、虚血性心疾患で1.08(0.84-1.22)でした(図1)。さらに、肥満の有無別(BMI<25.0kg/m2と≥25.0kg/m2)に検討しましたが、いずれも関連は見られませんでした。
私たちの研究班では、すでに米飯摂取で女性の糖尿病リスクが上昇したことを報告しています(リンク)。なぜ米飯摂取で女性の糖尿病リスクが上昇したにも関わらず、循環器疾患発症や死亡との関連はみられなかったのでしょうか。1つには、精米の過程で不溶性食物繊維、マグネシウム、ビタミン、リグナン、植物エストロゲン、フィチン酸などが取り除かれてしまからではないかと考えられます。これらの成分は循環器病よりも糖尿病予防に強く関わっています。以上のような効果により、日本人における米飯摂取は循環器病のリスクとは関連しないという結果となったのではないかと推察されます。
まとめ
米飯が循環器疾患と関連するのではないかという様々な仮説がありますが、本研究においては、米飯摂取と循環器疾患の発症・死亡のリスク増加との関連は認められませんでした。
※本研究の米飯の値は、対象者の一部に実施されたより直接的な食事記録調査から算出された値と対比すると、男性では9%多く、女性では4%少なく見積もっています。
多目的コホート研究などで用いられる食物摂取頻度アンケート調査は、摂取量による相対的なグループ分けには適していますが、それだけで実際の摂取量を正確に推定するのは難しく、また年齢や時代・居住地域などが限定された対象集団の値を一般化することは適当とは言えませんので、ここに示した摂取量はあくまで参考値にすぎません。