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多目的コホート研究(JPHC Study)

精神的要因、コーヒーと糖尿病との関連について

-「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果-

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・虚血性心疾患・糖尿病などとの関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)および平成5年(1993年)に岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古の9保健所(呼称は2009年現在)管内にお住まいだった40~69歳の男女約5万6千人の方々を10年間追跡した調査結果にもとづいて、精神的要因(ストレスとタイプA行動パターン)やコーヒー摂取と糖尿病発症との関連を調べた結果を学術雑誌に発表しましたのでご紹介します。 (Endocrine Journal, 2009年6月 56巻459-468ページ)

ストレスは糖尿病発症のリスクになるのか

精神的ストレスはいろいろな病気の原因となりうると考えられています。糖尿病についてもストレスがその原因の一つになっているという考えは昔からありました。しかし、精神的ストレスと糖尿病発症との関連を大規模に調べた研究は今までほとんどありませんでした。また、最近、コーヒーをよく飲む人では糖尿病の発症が少ないという研究が国内外から多数発表されています。このため、コーヒーの影響も考慮して分析を行いました。

今回の研究では、ベースライン調査での質問事項に基づいて糖尿病の既往がある方や心疾患や慢性肝疾患の既往のある方などを除外し、さらに5年後と10年後の両方とも質問票調査に回答した55,826人(男性24,826人、女性31,000人)を対象としました。ストレスやタイプA行動パターン(せっかち、怒りっぽい、競争心が強い、積極的などの行動パターン)の度合い、コーヒー摂取、糖尿病発症などは質問票の回答をもとにして判定しました

精神的要因と糖尿病発症との関係

10年間の追跡期間中、男性1,601人、女性1,093人が糖尿病を発症したと答えました。日常のストレスが「少ない」グループと比べて、「普通」あるいは「多い」グループでは糖尿病発症のリスクが高くなる傾向があり、男性ではストレスが「多い」グループでは「少ない」グループと比べて統計学的に有意に高くなっていました。

図1

 
女性でもストレスが多いほどリスクが高くなっていましたが統計学的に有意ではありませんでした。女性では、日常ストレスの多い生活をする傾向を表すとされているタイプA行動パターンのグループで、対極的なタイプB行動パターンのグループと比べて糖尿病発症のリスクが統計学的に有意に高くなっていました。男性ではこのような傾向は見られませんでした。尚、年齢、肥満指数、喫煙、飲酒、糖尿病の家族歴、運動、高血圧歴、コーヒー摂取について、グループによる差が結果に影響しないよう考慮して分析を行いました。

コーヒーには、ストレスに反応して分泌されるコルチゾールの活性化を妨げたり、ストレスによる血圧上昇を鈍らせたりする作用があるとの報告があり、ストレスの影響を緩和する作用があるのかもしれません。そこでコーヒーを1日3杯以上飲むグループとそうでないグループに分けて分析してみたところ、男性にその影響が見られ、コーヒーを1日3杯以上飲む場合には、ストレスが多いグループでも少ないグループに比べて糖尿病発症のリスク上昇は見られませんでした。統計学的には有意ではありませんでしたが女性でも同様の傾向が見られました。

コーヒー摂取と糖尿病発症との関係

それでは、ストレスの影響を除いた場合に、コーヒーと糖尿病にはどのような関連が見られるのでしょうか。調査開始時のコーヒー摂取量により全体を6つのグループに分けてその後の糖尿病発症について比較してみました。年齢、既知の糖尿病リスク因子およびストレスと睡眠時間のグループによる差が結果に影響しないよう考慮して分析を行いました。すると、やはりコーヒーをよく飲む人たちでは糖尿病発症のリスクが低くなる傾向が見られました。これは男女とも統計学的に有意な傾向でした。コーヒーには、ストレス緩和以外にも、糖尿病リスクを下げるような独自の効果があると考えられます。

図2

 
ストレスと糖尿病発症とはどう関係しているのか

ストレスが糖尿病を引き起こすメカニズムはよくわかっていません。一つの仮説として、精神的ストレスが内分泌学的な変化を起こしそれによって血糖値が上昇する、という考え方があります。しかしストレスを評価するのは大変難しいことです。今回は「日常、あなたの受けるストレスは多いと思われますか?」という一つの質問に対する回答で評価していますが十分なものとはいえません。ストレスが糖尿病を引き起こす、ということは生理学的には十分にありうることであり、今後より詳細なストレスの評価によりストレスと糖尿病との関係や、コーヒーと糖尿病の関係、ストレスへのコーヒーの影響などが明らかになっていくことが期待されます。

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