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現在までの成果

喫煙による虚血性心疾患リスク上昇への魚摂取による影響

-「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果-

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防や健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。1995年と1998年に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古の9保健所管内にお住まいだった45~74歳の男女に、食事アンケート調査への回答をお願いしました。このうち、心筋梗塞、脳卒中やがんの既往のない約7万2000人の方々について、その後平均12年追跡した調査結果に基づいて、喫煙と虚血性心疾患の発症・死亡との関連と、そこに魚摂取量がどのように影響しているかを調べました。その研究結果を国際学術専門誌に発表しましたので紹介します(Am J  Epidemiol 2014年 179巻1173-1181ページ)。

これまでの研究から、魚摂取は虚血性心疾患の予防因子であることが広く知られています。私たちの研究班でも、魚摂取により虚血性心疾患のリスクが低下することを報告しています。欧米人と比べて、日本人には魚摂取量が多く、虚血性心疾患の発症率が低いことという特徴があります。一方で、日本人の喫煙率は男性で高く、若い女性の喫煙率も増加傾向にあります。そこで、多目的コホート研究において、喫煙と虚血性心疾患の発症・死亡リスクとの関連に対する魚摂取の影響を検討しました。

 

喫煙により虚血性心疾患の発症リスクが増加する

研究開始時の調査において、対象者を喫煙状況により非喫煙者、過去喫煙者、現在喫煙群:低グループ(20本未満/日)、中グループ(20-29本/日)、高グループ(30本以上/日)5群に分類しました。2009年までの追跡調査中に、584人の虚血性心疾患の発症(そのうち、心筋梗塞516人)が確認されました。解析において、年齢、性、肥満度(BMI)、地域、その他の交絡因子(高血圧・糖尿病の既往、高脂質血症の服薬、運動時間、果物・野菜、飽和脂肪、一価不飽和脂肪、n-6系多価不飽和脂肪、コレステロール、総エネルギー)の影響を補正した上で、喫煙状況による虚血性心疾患の発症・死亡リスクの差を検討しました。

その結果、非喫煙者に比べ、現在喫煙群の3つのグループにおいて、虚血性心疾患の発症リスクが高いことが認められました。過去喫煙群では関連がみられませんでした。非喫煙者を1とした場合、過去喫煙者のリスク(95%信頼区間)は1.09(0.83-1.43)、現在喫煙群の低グループで2.01(1.50-2.67)、中グループで2.37(1.80-3.10)、高グループで2.56(1.83-3.59)と、統計学的に有意なリスクの上昇がみられました(図1)。  

 

喫煙と虚血性心疾患

 

喫煙と虚血性心疾患の発症との関連は、魚の高摂取群で弱められた

次に、喫煙と虚血性心疾患リスクの関連を魚摂取区分の低値群(中央値86g/日未満)と高値群(中央値86g/日以上)に分けて検討しました。

その結果、魚の低摂取群では喫煙により虚血性心疾患リスクの上昇が認められましたが、魚の高摂取群ではその関連が弱められていました。魚の低摂取群における虚血性心疾患のリスク(95%信頼区間)は、非喫煙グループを1とした場合に、過去喫煙者では統計学的な有意差はみられず、現在喫煙では低グループで2.39(1.60-3.56)、中グループで2.74(1.90-3.95)、高グループで3.24(2.12-4.95)でした(図2)。魚の高摂取群においてにおいては、喫煙:高グループ2.00(1.18-3.51)でのみ有意なリスク上昇がみられました(図2)。さらに、現在喫煙:高かつ魚:低摂取群に比べ、現在喫煙:低かつ魚:高摂取群では虚血性心疾患の発症リスクは43%低下していました。 しかしながら、いくら魚を食べても喫煙によるリスク上昇が消えてしまうわけではありませんでした。

喫煙により内皮が損傷するのに対し、魚に多く含まれるn-3脂肪酸には血圧の上昇を抑え、特に中性脂肪が高い場合に脂質代謝異常をただし、血管の機能を改善し、炎症反応と血小板凝集を抑えるなどの働きなどがあります。そうしたメカニズムにより、本研究では、魚をよく食べるグループで、特に中程度までの喫煙群において喫煙と虚血性心疾患のリスクが弱められたのではないかと推察されます。  

 

魚と喫煙と虚血性心疾患

 

まとめ

本研究から、魚の摂取により喫煙による虚血性心疾患の発症リスク上昇が弱められる可能性が示されました。しかしながら、魚の高摂取群においても吸わない人に比べ多く喫煙するグループでのリスク上昇が認められることから、禁煙が重要であることは言うまでもありません。

※この研究の魚介類摂取量の値は、対象者の一部に実施されたより直接的な食事記録調査から算出された値と対比すると、男性では16~28%、女性では1~10%少なく見積もっています。

多目的コホート研究などで用いられる食物摂取頻度アンケート調査は、摂取量による相対的なグループ分けには適していますが、それだけで実際の摂取量を正確に推定するのは難しく、また年齢や時代・居住地域などが限定された対象集団の値を一般化することは適当とは言えませんので、ここに示した摂取量はあくまで参考値にすぎません。

 

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